外国人が離婚をすると、在留資格や永住権が取り消しされて強制退去になるか?

皆さんは、日本での国際結婚・国際離婚の現状をご存知ですか?
かつては外国人が少なかった日本も、国際化が進み、特に都心では「外国人との国際結婚も増えているのでは?」と予想される方も多いでしょう。しかし、実際の統計では逆の結果があります。
日本人と外国人の国際結婚については、平成18年までは増加傾向にあり、45000人を超えていたものの、平成27年では約21000人(結婚全体の3.3%)に激減しています。
かつてはフィリピン人の方との結婚が増え、国際結婚急増の時期があったのですが、現在では法律が変わったことで落ち着き、現状に至るようです。これだけ街に観光客が増えたのに意外といえば意外ですよね。
目次
国際結婚の離婚率
では、離婚率はどうでしょうか?
2020年の厚生労働省による「人口動態調査」によれば、国際結婚した夫婦の離婚率は57.2%と報告されています。この数字は、日本人同士の夫婦の離婚率(36.1%)と比較すると、倍近くも高い割合となっています。国際結婚自体が少ない上に、離婚は多いというのが現状なのです。
そこで、今回はフィリピン人やアメリカ人などとの国際離婚で知っておくべき法律を解説します。在留資格から、離婚後の親権、ハーフの子どもの国籍、配偶者ビザで離婚したらどうなるのか、永住権は日本人の配偶者と離婚すると取り消しなのか、強制帰国なのかまで見ていきましょう。
そもそもビザと在留資格は違うもの
「国際離婚すると、配偶者は国外退去されてしまうか?」という質問をされる方は多いです。
それを理解する上で必ず知っておくべきことの1つが「在留資格」と「ビザ」についてです。
まず一般的には、ビザと在留資格は同じものと捉えられていることがよくあります。通常の会話ではあまり区別されませんが、実はこの2つには違いがあるのです。
ピザ(査証)とは何か
「ビザ」とは渡航前に、現地(つまり外国)の大使館や領事館でパスポート等を確認し「入国に問題がない」と判断された場合に発行される「証明書」のことです。
簡単いうと、実際に入国する際に「この人は事前に審査しましたが問題ありませんよ」という推薦状をもらったようなものとなります。
日本に入国する際は、現地の日本大使館でビザを発行してもらい、実際に入国するときにビザをチェックされ、入国した段階でビザは使用済みとなります。
つまりここで「ビザの効力は切れる」ということです。
在留資格とは何か
そして、ビザを持った外国人が日本に入国する際には、パスポート等をチェックし、入国が可能かどうかを判断します。
このとき、入国OKと判断した場合には「在留資格」を付与することで入国を許可するのです。
そして在留資格は、日本に滞在できる根拠となり「期間が限定」されています。
このように、ビザとは入国までの証明書、在留資格は滞在の根拠となるものという点で違いがあります。
在留資格の種類
在留資格は27種類もあります。これはもちろんフィリピン人であってもアメリカ人であっても同様です。すべての種類を説明すると長くなってしまいますので、ここでは国際結婚・離婚で最低限知っておくべき在留資格の種類について簡単にご説明します。
留学ビザ
留学ビザは、上述した解説を加味すると、正式には「留学の在留資格」となります。
大学時代に知り合った外国人留学生と結婚する場合は、婚姻時は留学の在留資格となっていることになります。
留学の在留資格では、日本の大学,短期大学,高等専門学校,高等学校,中学校及び小学校等にて教育受ける外国人の学生・生徒に与えられます。
就労ビザ
次に、就労ビザについてです。日本に働きにきている方とご結婚された外国人の方は、婚姻時はこの在留資格であったはずです。
正確には「就業の在留資格」となり、14もの種類があります。具体的には以下の通りです。
- 教授
- 芸術
- 宗教
- 報道
- 経営・管理
- 法律・会計業務
- 医療
- 研究
- 教育
- 技術・人文知識
- 国際業務
- 企業内転勤
- 介護
- 興行
- 技能
それぞれ個別に年数等は異なります。一般的に多い企業内転勤やほとんどの職種は、在留期間が5年、3年、1年又は3月となっています。
日本人の配偶者等(配偶者ビザ)・永住者の配偶者等・定住者
そして、婚姻後の在留資格です。いわゆる「配偶者ビザ」などと呼ばれているものです。
- 日本人の配偶者等
- 永住者の配偶者等
- 定住者
まず、具体的には、「日本人の配偶者等*1」「永住者の配偶者等*2」という在留資格があります。期間としては、双方5年、3年、1年又は6ヶ月があります。
これは、以下に当てはまる人がこの在留資格となるのです。
- 日本人と結婚した方
- 国際結婚の間に生まれた子ども
- 永住権を持つ人
- 永住権を持つ親の子ども
さらに、「定住者」という在留資格もあります。
具体的には、以下の人々等が対象です。
- 法務大臣が特別な理由を考慮し一定の在留期間を指定して居住を認める者
- 第三国定住難民
- 日系3世
- 中国残留邦人等
期間は、5年、3年、1年、6ヶ月又は法務大臣が個々に指定する期間(5年を超えない範囲)となっています。
こちらは「国際離婚をしたあとに、日本に住み続ける在留資格」としてよく利用されているものとなります。
*1 正確には「日本人の配偶者若しくは特別養子又は日本人の子として出生した者、日本人の配偶者・子・特別養子」の在留資格を指す。
*2 「永住者等の配偶者又は永住者等の子として本邦で出生しその後引き続き本邦に在留している者、永住者・特別永住者の配偶者及び本邦で出生し引き続き在留している子」の在留資格を指す
永住者(永住権)
最後に、「永住者」という在留資格です。以下にあてはまる方に与えられる資格となります。
- 法務大臣が永住を認める者
- 法務大臣から永住の許可を受けた者(入管特例法の「特別永住者」を除く。)
永住者ですので、期間は無期限となります。
「国際離婚後に日本国籍を持つ子どもと日本に暮らすため、永住権を取得」される方も多くなっています。
日本人の配偶者と離婚したら永住権は取り消しになる?
では、日本人の配偶者と離婚したら永住権はどうなってしまうのでしょうか。取り消しになるのでしょうか。
まず、離婚が影響するのは「配偶者等」(配偶者ビザ)の在留資格の場合のみです。
そのため、定住者や永住者の在留資格を持っている方は、離婚による影響はありません。離婚による永住権の取り消しはないので安心してください。
また、日本国籍に帰化している方も心配される方がいらっしゃいますが、なんら問題ありません。日本国籍が取り消されたりすることはありませんので、安心してください。
このように、国際離婚した場合には、永住権や在留資格に関して多くの不安を抱えている方多いと思います。これら以外にも疑問がある方は、国際結婚・離婚を専門に持つ弁護士に相談しましょう。
国際離婚すると、外国人の在留資格はどうなるの?
永住権は問題ありませんでしたが、国際離婚をすると、外国人の方の在留資格はどうなるのでしょうか。
「配偶者等」の在留資格の場合:離婚したら6ヶ月で強制帰国されるって本当?
日本人と結婚した後、上記で解説した2つの在留資格「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」を得ていた場合、離婚するとどうなるのでしょうか。
結論から申し上げますと、離婚するとすぐに退去しなければいけないわけではありません。基本的には、離婚後も「在留期限まで滞在」することができます。
離婚したらすぐに中国やフィリピン、韓国へ出国しなければならないと考えている方が多いのですが、離婚してもすぐに在留資格がなくなってしまうわけではありません。
もっとも、在留期限までに「在留資格の変更」をしなくてはなりません。
入国管理局に離婚を届け出る必要性ってあるの?
国際結婚で離婚したら、離婚自体を入国管理局に届け出る必要があります。
それも、離婚後「2週間以内」に届け出る必要があります。届け出は義務であり、これを怠ると「罰金」の可能性もあります。
届け出をしないと、その後の在留資格の更新にも影響が出てしまいますのでごまかさないようにしましょう。
また入管法によると以下のようになっています。
- 「日本人の配偶者としての活動を継続して6カ月以上おこなわないで在留している場合には在留資格を取消すことができる」
つまり、離婚後6ヶ月は、日本に滞在可能であるが、その後は在留資格取り消しの可能性があるということです。
6ヶ月後にすぐに失効するわけではありませんが、この間に在留資格の更新をしなければいけません。例外的に、離婚裁判中である場合などは、「正当な理由」となるため、在留資格が取り消されません。
「配偶者等」の資格を入管で更新するにはどうしたらいいの?
では、外国人が日本人と離婚する場合に、日本に住み続けるにはどうしたらよいのでしょうか。
日本人と結婚したことを理由に在留資格が与えられている方は、現在「日本人の配偶者等」、「永住者の配偶者等」となっているはずです。この場合は、できるだけ早く在留資格を変更しなければいけません。
具体的には主に以下の3ついずれから選択し更新することになります。
- 「就業の在留資格」
- 「定住者の在留資格」
- 「永住者の在留資格」
就業の在留資格の場合
就業の在留資格は限定されます。
学績・職歴などでそれぞれの要件を満たさなければ、許可してもらえない場合が多いです。
定住者の在留資格の場合
また定住者の在留資格の場合は以下が条件です。
- 「婚姻期間3年以上で一定の収入や資産があること」
- あるいは「日本国籍を持つ親の子供の親権」があり、監護する必要がある場合
3年未満である場合や、生活保護を受けている場合でも変更は可能とするケースもありますが、原則的には上記が条件となります。
変更できた場合には、就労の職種に制限はありません。
永住者の在留資格の場合
永住者に変更、永住権取得するためには以下のような条件が必要になります。
- 「「配偶者等」の在留資格の場合は、婚姻期間が3年以上で直近1年以上日本に住んでいること」
- 「定住者として5年以上日本に住んでいること」
- 「これら以外の在留資格の場合は、日本に10年以上居住していること」
これら以外にも「安定した収入」があることが条件です。永住者は在留資格でももっとも長いものとなるため、ハードルも高くなります。
このように、現在「配偶者等」の在留資格の方は、在留資格を上記のどれかに変更することで、日本に居住し続けることができます。
国際離婚と子供の国籍!ハーフの場合、親権はどうなる?
子供の親権は「法の適用に関する通則法」が適用
国際離婚の際、子どもの親権はどうなるかですが、まず、国際離婚の際に「どの国の法律」が適用されるかについてご説明いたします。
日本では、外国人と日本人の国際私法取引、国際家事事件については、「法の適用に関する通則法」という法律が適用されています。
この法律には、国際離婚の際の子どもの親権についてどの国の法律が適用されるべきかが記載されています。
法の適用に関する通則法32条 親子間の法律関係
親子間の法律関係は、子の本国法が父又は母の本国法(父母の一方が死亡し、又は知れない場合にあっては、他の一方の本国法)と同一である場合には子の本国法により、その他の場合には子の常居所地法による。
簡単に説明すると以下のようになります。
- 子どもの国籍が父母のどちらかと同じ場合には「子どもの国籍の国の法律」が適用
- 子どもの国籍が父母どちらとも異なる場合には「子どもが主に住んでいる場所の法律」が適用
子供がハーフの例で考えてみると、以下のとおりです。
- 父・アメリカ人、母・日本人
- 子・アメリカ国籍
- →アメリカの法律が適用
ちなみに、子が二重国籍の場合は、主に居住している国の法律が適用されます。
こうして定められた国の法律により、子供の親権が決まることになります。
国際離婚後の子どもの国籍|二重国籍
日本で子どもが生まれたハーフの場合、両親どちらかが日本人の場合には「日本国籍を保持」します。
この場合、婚姻相手の国の法律にもよりますが、20歳までは二重国籍の状態となります。子どもが20歳になるまでに自分で国籍を選ぶことが可能です。
そして両親が離婚した場合も子どもの国籍は変わらず、将来的に本人の意思で選ぶことになります。
「離婚すると外国籍になってしまうのでは?」と考える方もいますが、自動的に外国籍になることはありません。
「本人が納得した上で、日本国籍を放棄しないと外国籍にはならない」ということです。
親のビザ・在留資格がきれた場合。子供はどうなるの?
では、離婚で親の在留資格がなくなってしまった場合、子どもの在留資格に影響するのでしょうか。
子どもが日本国籍の場合
まず、子どもが「日本国籍」を保有(二重国籍でも同じ)している場合には、子どもに影響はありません。
日本に住み続けることができます。
子どもが外国国籍の場合
子どもが前妻・前夫の子である場合等で「外国国籍の場合」は、子供の在留資格は生まれた時から「日本人の配偶者等」、「永住者の配偶者等」等となっているはずです。
この場合、親の在留資格も同様に「配偶者等」である場合には、親の在留資格の変更によって子どもの在留資格も変更します。しかし、子どもが3年以上日本に居住している場合には、監護者と一緒に「定住者」の在留資格取得なども考えられます。
仮に、離婚後に「定住者」に在留資格を変更する場合は、離婚の経緯や理由も聞かれることになります。離婚理由等も許可に影響しますので、丁寧に説明する必要があるでしょう。
このように、子どもが日本国籍を保有している場合は何ら問題ありません。
子どもが外国籍の場合には「定住者」の在留資格に変更することを検討してみましょう。
外国人と戸籍・苗字|離婚したらどうなるの?
最後に、外国人と戸籍についてご説明します。そもそも前提として外国人の戸籍はどのようになっているのでしょうか。
そもそも結婚した時、外国人配偶者の戸籍はどうなってる
まず、外国人の場合は日本人と結婚しても独自の戸籍を持つことはできません。
とはいっても、全く戸籍に表記されないわけではなく、日本人配偶者が筆頭者となる戸籍に外国人配偶者の名前が記載されることになります。
戸籍には、名前だけでなく国籍や婚姻期日なども記載されます。
そもそも結婚した時、子供の戸籍はどうなってる
次に、国際結婚の間に生まれた子どもについてですが、出生届を提出すると同時に、日本人配偶者が筆頭となっている戸籍に記載されます。この点は、日本人同士の間に子どもが生まれた場合と何ら違いはありません。
また婚姻後の苗字については、相手の国の法律によっては夫婦別姓も選べることはご存知かと思いますが「子どものみ外国籍の苗字」にする場合は、家庭裁判所に子どもの苗字の変更を申し立てなければいけません。
認められると、子ども独自の戸籍*が作られます。
*ちなみに、日本では戸籍といえば「あるのが当たり前」のことのように扱われていますが、実は海外では戸籍自体がない国の方が多いのです。お隣の韓国では、日本と同じように戸籍がありましたが、2008年に廃止され、その代わりに国民全員に番号が割り振られています。日本でもマイナンバーが導入されましたので、もしかすると将来的には戸籍がなくなる可能性もあるかもしれませんね。
離婚後の外国人配偶者の戸籍はそのまま
では、離婚をした場合は、外国人配偶者の戸籍はどうなるのでしょうか。
先にお話しした通り、戸籍は日本人配偶者を筆頭者として作成されます。そのため、離婚しても戸籍はそのままです。筆頭者と子どもの戸籍がそのまま残ることになります。外国籍の配偶者については、離婚の事実が記載されます。
結婚時に、外国籍の名字に変更していた場合は注意
問題となるのは苗字です。基本は下記のルールがあります。
- 日本人同士の結婚の場合、離婚すると届け出をしない限り自動的に旧姓に戻る
- 国際結婚でも、日本の姓を選んだ場合にはそのまま
しかし、国際結婚の場合で「外国籍の方の苗字に変更していた場合」には、手続きなしに元の苗字戻ることはありません。
離婚後3ヶ月以内に届け出をすることで旧姓に戻ることが可能です。これを過ぎると、家庭裁判所にて改氏の申し立てが必要です。
このように、離婚後は「戸籍」よりも「苗字」の問題が発生するケースが多くなります。
離婚前に事前に子どもと親の苗字をどうすべきか考えておく必要があるでしょう。
国際離婚に強い弁護士に相談してみましょう
国際離婚は、弁護士案件としても専門性が高く対応できる弁護士が限られています。国際離婚に詳しい弁護士に相談することをお勧めいたします。

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