離婚後でも慰謝料請求できる?精神的苦痛を償ってほしい!

離婚をする際、当事者の一方に大きな責任があるような場合には、慰謝料の支払い義務が発生します。
しかし、離婚協議の中で特に慰謝料について取り決めることのないまま離婚が成立してしまうケースもあります。
不倫していたことが離婚後に発覚することも少なくありません。
離婚後に不倫が発覚した場合に、精神的苦痛を受けて、離婚後でも相手に慰謝料を請求することはできるのでしょうか?
また、離婚後に相手から慰謝料を請求された場合、請求に応じる義務はあるのでしょうか。
この記事では、
- 離婚後に精神的苦痛を受けて慰謝料請求が認められる場合
- 慰謝料金額の相場、慰謝料請求できる期間
- 離婚後に相手から慰謝料請求された場合の対処法
などについて、法律的な観点から解説します。
目次
離婚後に慰謝料を請求することはできる?
離婚後であっても、一定の条件を満たす場合には、離婚原因を作った元配偶者に対して精神的苦痛として慰謝料を請求することができます。
どのような場合に慰謝料を請求することができるかについて3点を解説します。
①精神的苦痛!離婚について元配偶者の側に責任があること
離婚前請求でも離婚後請求でも同じである、慰謝料の基本的な内容をまず解説します。
慰謝料とは、法的には不法行為(民法709条)に基づく精神的損害の賠償のことをいいます。
不法行為とは、故意または過失により違法に相手の権利を侵害し、損害を与えた場合に成立します。
したがって、離婚の慰謝料が認められるためには、元配偶者の側に離婚についての故意または過失が認められることが必要です。
精神的苦痛を受けない円満な離婚であれば、離婚前で離婚後でも基本的に慰謝料が認められることはありません。
しかし、どちらか一方が明らかに悪いような場合には、不法行為に基づく慰謝料が認められます。
たとえば、以下のケースでは慰謝料が認められる可能性が高いといえます。
- 不貞行為があった場合
- DVやモラハラがあった場合
- 悪意の遺棄が認められる場合(生活費を全く渡さない、理由のない悪質な別居など)
なお、不貞行為の場合には、不倫相手に対しても不法行為に基づく損害賠償を請求することができます。
証拠なしは駄目!証拠は大切
慰謝料を請求するためには、相手の故意または過失を立証できる証拠を収集しておくことも重要です。証拠なしではいけません。
たとえば不貞行為を理由として慰謝料を請求する場合には、以下のような証拠が有効となります。
- 交際関係や肉体関係の存在が分かる内容のメールやLINEのトーク履歴
- ラブホテルや自宅に出入りしている様子がわかる写真や動画
- 不貞行為を認める会話が残された音声
②離婚時に相手方と金銭に関する取り決めを行っていないこと
離婚協議などが成立する際に、後に揉め事になることを防止するため、離婚の合意書に「清算条項」を設ける場合があります。
清算条項とは、「合意書の締結をもって、当事者間に一切の債権債務関係がないことを確認する」という趣旨の条項です。
つまり、離婚合意書の締結を機に、元夫婦の間では慰謝料の請求も含めて一切の請求を相互に行わないことを合意する内容になります。
清算条項が有効に締結されている場合には、仮に慰謝料請求権が発生していたとしても、清算条項によりそれを放棄したものとみなされます。
したがって、有効な清算条項が存在する場合には、離婚後に相手に慰謝料を請求することはできません。
ただし、清算条項の有効性に法的な問題がある場合には、例外的に離婚後の慰謝料請求が認められることがあります。
たとえば以下のような場合が挙げられます。
- 清算条項の内容に錯誤があった場合
- 詐欺行為により清算条項に合意させられた場合
- 強迫行為により清算条項に合意させられた場合
③慰謝料請求権の消滅時効が完成していないこと
離婚後に慰謝料を請求しようとしても、慰謝料請求権の消滅時効が完成している場合には、相手に消滅時効を援用(※)されてしまうと、慰謝料の支払いを受けることができなくなります。
※時効の「援用」とは、時効が成立していると法律的に主張すること、と理解しておけば大丈夫です。
慰謝料請求権は不法行為に基づく損害賠償請求権ですので、消滅時効は被害者が損害の発生と加害者を知った時から3年を経過すると完成します(民法724条1号)。
例えば不貞行為の場合で、離婚後に不倫の事実を知った場合は、その時から消滅時効が起算されることになります。
なお、不倫の事実を全く知らなかった場合であっても、不貞行為があった時から20年を経過すると、やはり慰謝料請求権の消滅時効が完成します(同条2号)。
消滅時効が完成しているかどうかの判断は専門的な要素が関係して難しいので、詳しくは弁護士に相談するのがおすすめです。
離婚後に請求できる慰謝料の金額の相場は?
離婚前も離婚後も、慰謝料は、加害者にどの程度の責任があるかを考慮して決定されます。
考慮要素としては、一例として以下のものが挙げられます。
- 加害者の行為の悪質性
- 加害の期間・頻度
- 同居の期間
- 家庭環境(子どもの有無など)
そのため、慰謝料の金額は個々の事例によりケースバイケースです。
あくまでも目安ですが、おおむね以下の程度の金額の慰謝料が認められる傾向にあります。
不貞行為の場合 | ~300万円 |
---|---|
DVの場合 | ~500万円 |
モラハラの場合 | ~200万円 |
悪意の遺棄の場合(生活費を渡さない、理由のない別居など) | ~200万円 |
離婚後に慰謝料を請求された時にはどうしたらいいの?
逆に、離婚後に自分が慰謝料を相手から請求されてしまった場合には、どのように対応すればいいのでしょうか。
検討すべき事項について、以下でわかりやすく解説します。
本当に慰謝料の支払い義務があるかどうかを検討する
まずは、離婚後に、離婚時の事情に照らして、本当に自分が慰謝料を支払わなければならない義務を負っているのかを検討しましょう。
基本的には、自分から相手に対して慰謝料を請求する場合と同様の検討が必要となります。
つまり、主に以下の3点を検討することになります。
- 離婚について自分に責任があったといえるか
- 離婚時に清算条項が有効に締結されていないか
- 消滅時効が完成されていないか
なお、自分に離婚後に、慰謝料の支払い義務があるのに相手からの請求を無視していると、訴訟や強制執行の可能性があるので、注意が必要です。
仮に強制執行に至ってしまった場合、給与債権の差し押さえなどによって勤務先に不貞の事実が発覚してしまうこともあります。
また、突然財産が差し押さえられてしまうと、生活に困窮してしまうことにもなりかねません。
そのため、正当な理由のある慰謝料請求に対しては誠実に対応することが重要です。
離婚後請求できる期間ある?慰謝料を支払う必要がない場合の具体例
離婚の際に必ず慰謝料請求権が発生するとは限りません。
たとえば離婚の原因がお互いにある場合(性格の不一致など)には、通常は慰謝料が認められません。
また、不貞行為が行われた時点で既に婚姻関係が破綻状態にあった場合にも、慰謝料請求は認められないものと解されています。
その他にも、既に解説したとおり、離婚時に清算条項が有効に締結されている場合や、消滅時効が完成している場合についても慰謝料請求は認められません。慰謝料請求できる期間があるのです。
離婚後に慰謝料金額を減額できないか交渉する
慰謝料の支払いに関する和解交渉を行う際には、裁判になった場合にどのくらいの慰謝料が認められるかということが一つの基準となります。
先に解説した各離婚原因に対応する慰謝料の相場金額と比較して、過度に高額な慰謝料を請求された場合には、減額交渉を行いましょう。
なお、慰謝料の金額は事例に応じてケースバイケースであり、どのくらいの金額の慰謝料が認められそうかということの判断は難しい部分があります。
そのため、金額の目安を判断する際には弁護士に相談することがおすすめです。
不貞行為が原因の慰謝料の場合
また、不貞行為を原因とする慰謝料請求の場合には、不倫相手に対する慰謝料請求も並行して行われている可能性があります。
不倫をした男女は、不倫の被害者に対して連帯して損害賠償(慰謝料)債務を負います。
「連帯して」というのは、「二人で〇〇円」という形で慰謝料が認められるということを意味します。
たとえば、Aと結婚しているBがCと不倫をしたとします。
この場合、AはBとCに対して慰謝料を請求することができます。
仮に慰謝料が「BとC合わせて200万円」という形で認められたとしましょう。
この場合、AはBに対してもCに対しても200万円全額を請求することができますが、合計で200万円を回収できたらそれでおしまいです。
両方から200万円ずつ、合わせて400万円を受け取れるということではありません。
不倫をした男女に対する損害賠償請求が別々に行われている可能性がある場合には、不倫相手とコミュニケーションを取って請求の状況を教えてもらい、二重払いが発生しないように注意しましょう。
離婚に強い弁護士に相談する
離婚後に慰謝料を請求されてしまった場合には、弁護士に相談することがおすすめです。
慰謝料の金額はケースバイケースですので、本当に慰謝料を支払う義務があるのか、金額はどのくらいになるのかなど、判断が難しい問題が多く存在します。
また、一人で離婚した元配偶者との交渉などを行うのは精神的な負担も大きくなってしまいます。
特に元配偶者の側にも弁護士が付いている場合、法律の専門知識や経験の点で圧倒的に不利になってしまうでしょう。
弁護士は、依頼者から離婚当時の状況や解決方法の希望などを丁寧に聞いたうえで、依頼者にとってもっともよい解決となるように尽力してくれます。
法律の専門知識や経験がある点でも心強く、また交渉などの手間を肩代わりしてくれるということにも大きなメリットがあります。
さらに、相手が訴訟などの法的手段に訴えてきた場合にも、事前に弁護士に相談していればスムーズに対応することができます。
離婚後に慰謝料請求を受けて困ってしまった場合は、ぜひ弁護士に相談してみてください。
まとめ
以上に解説したように、離婚後でも一定の条件を満たせば、相手に対して慰謝料を請求することは可能です。
正当な理由のある慰謝料請求を放置してしまうと、裁判や強制執行などの法的手段に訴えられ、事態は大ごとになってしまいます。
そのため、適切かつ速やかに対処することが重要です。
どのように対処したらよいかわからないという場合には、法律の専門知識を有する弁護士に相談することをおすすめします。