養育費と法改正|民事執行法改正で強制執行が簡単に!詳しく解説【2023年】

最近、強制執行に関するルールを定める民事執行法という法律が改正され、養育費の強制執行を行うことが簡単になりました。
今までは、離婚の際に養育費を取り決めても、そのとおりに相手が支払いを行うとは限らず、養育費を任意に支払ってもらえない場合には、強制執行の手続きを取っていましたが、なかなか支払ってもらえませんでした。
養育費不払いをなんとか取り締まってほしいという願いが届き、法改正に至りました。
この記事では、改正民事執行法の内容や、法改正により養育費について新しいルールをどのように活用できるようになったのか、養育費の強制執行を行う際の注意点などについて2022年最新版として解説します。
また、すでに元配偶者の養育費未払いで困っている場合は、時効の関係もあるので、すぐに養育費の回収に強い弁護士に相談すべきでしょう。
民事執行法とはわかりやすく言うと
そもそも民事執行法とは「強制執行」の要件や手続きについて定めた法律です。強制執行とはわかりやすく言うと、
- 債務者が債権者に対してお金を払わないなど義務を履行しない場合(債務不履行)、
- 債権者は一定の手続きを踏んだうえで、債務者の財産を強制的に取り上げ、処分して弁済に充てることができる
というような手続きのことをいいます。
強制執行は債務者の権利に与える影響が大きいため、執行対象となる財産の種類などに応じて、民事執行法で詳細なルールが定められています。
その民事執行法は、令和元年(2019年)に改正法が成立し、2020年4月1日から施行されています。

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法改正前の2021年・2022年以前の「養育費」の強制執行について
法改正は養育費支払いにも関係ある
養育費の支払い義務者は元配偶者に対して養育費を支払うべきですが、途中で「養育費が支払われなくなるケース」があります。
そのような際に「養育費不払いを取り締まる法律はないものか」と考える方もいらっしゃることでしょう。
後述する財産開示手続上の義務違反が刑事罰になる可能はありますが、養育費を支払わないだけで即逮捕はありません。
ただ、養育費を受け取る権利のある人は、民事執行法の規定に基づいて「強制執行」を行うことができます。
執行対象となる財産の特定が必要
強制執行の際には、対象となる財産に対して差押えが行われることになります。
ここで注意しなければならないのは、差押えの目的物である財産は強制執行を「申し立てる側が特定」しなければならないということです。
たとえば動産であれば、最低限場所を特定する必要があります(現実的には種類や数も特定して申し立てることが多いです)。
また、よく差押えの対象となる預金債権(預金口座内のお金)については、銀行だけでなく支店名まで特定しなければならないものとされています。
給与債権を差し押さえようとする場合には、勤務先を特定しなければなりません。
差押えの目的物を特定するためのこうした情報については、強制執行を申し立てる側で収集する必要があるのです。
従来のルールでは債務者の財産情報を得ることが難しかった
しかし、これらはすべて債務者に関する情報ですので、既に債務者と離婚した元配偶者が簡単に知ることはできません。
そのため、強制執行を申し立てる際には、目的物である財産の特定が大きなハードルとなりがちです。
実は、今回の法改正が行われる以前から「財産開示手続」という制度が設けられていました(民事執行法197条1項)。
強制執行を申し立てる人が債務者に関する情報を収集するための助けとするためです。
財産開示手続とは、債務者が財産に関する陳述をするための期日(財産開示期日)を設け、債務者に陳述義務を負わせる制度です。
裁判所や強制執行の申立人から債務者に対して財産に関する質問が行われ、債務者は原則として質問に答えなければならないものとされています。
しかし法改正以前は、財産開示手続上の義務に違反したとしても、債務者への制裁は30万円以下の過料が科されるだけでした。
過料は刑事罰ではなく、行政上の制裁に過ぎないので、債務者に対するプレッシャーを与えるために十分な制裁とはいえませんでした。
そのため、財産開示手続は実効性に乏しい制度としてあまり利用されてない実情がありました。
このように民事執行法の改正以前は、強制執行の申立人が債務者の財産を特定するための実効的な手段に乏しかったため、結果的に養育費の強制執行をあきらめて泣き寝入りする人が多い状況でした。
改正民事執行法のポイントをわかりやすく解説
改正民事執行法においては、上記で解説した「強制執行の申立人が債務者の財産を特定することが困難である」という課題を解決するため、債務者の財産に対する調査の手続きが強化されました。
改正民事執行法によるルール変更のポイントについて、以下でわかりやすく解説します。
第三者からの情報取得手続(新設)
改正民事執行法の最も大きな改正ポイントは、「第三者からの情報取得手続」が新設されたことです(民事執行法204条以下)。
強制執行の申立人は、第三者からの情報取得手続を利用することにより、主に次の3パターンの情報を得ることができます。
- 債務者の所有する不動産に関する情報
- 債務者の給与債権に関する情報
- 債務者の預貯金等に関する情報
法改正以前から存在した「財産開示手続」は、債務者本人に財産について陳述してもらうという内容でした。
これに対して、「第三者からの情報取得手続」では、裁判所から市町村や、登記所、年金機構、金融機関などに対して情報提供命令が行われることになります。
これらの公的機関は、ほぼ間違いなく裁判所からの情報提供命令に従いますし、情報の正確性も非常に高いといえます。
そのため、強制執行の申立人は、債務者の給与債権や預貯金等に関する正確な情報を得られることが大いに期待できます。
なお、不動産と給与債権に関して第三者からの情報取得手続を申し立てるためには、申立ての日から遡って3年以内に財産開示手続が行われている必要があります(民事執行法205条2項、206条2項)。
財産開示手続がより広く利用可能に
さらに、従前から存在した財産開示手続についても、より実効的に活用されるようにルールの変更が行われました。
その一つとして、財産開示手続の利用対象者の拡大があげられます。
以前は、財産開示手続を利用できるのは、確定判決の正本等を有する申立人に限られていました。
しかし改正民事執行法の下では、確定判決の正本等に限らず「執行力のある債務名義*の正本」を有する申立人であれば、財産開示手続の申立てを行うことができるようになりました。
*債務名義とは、強制執行に必要な公的書面と理解しておいてください。
つまり、例えば離婚のときに弁護士に相談して、「執行認諾文言付き公正証書」を作成しておけば、養育費不払いの際にはすぐにそれを利用して財産開示手続を申し立てることができます。
この他にも申し立てに用いることができる債務名義はあるので、詳しくは後述します。
このように、改正民事執行法では、財産開示手続がより利用しやすくなるように要件が緩和されています。
養育費不払いを取り締まる?財産開示手続上の義務に違反した場合は刑事罰の対象に
「養育費不払いを取り締まる刑事罰のようなはないものか」と考えている方もいるでしょう。
改正民事執行法においては、財産開示手続上の義務違反が刑事罰の対象とされました。
具体的には、債務者が財産開示手続上の義務に違反した場合、6月以下の懲役または50万円以下の罰金に処せられます(民事執行法213条1項)。
したがって、法改正以降は刑事罰という強力な制裁をバックに、債務者をして財産開示手続に協力させることにより、財産開示手続をより実効的に運用できるようになることが期待されます。
また、すでに元配偶者の養育費未払いで困っている場合は、時効の関係もあるので、すぐに養育費の回収に強い弁護士にご相談ください。
第三者からの情報取得手続を利用する際の注意点
このように、改正民事執行法により養育費の強制執行をサポートする意味を持つさまざまなルールの変更がなされました。
しかし、第三者からの情報取得手続を利用する際には注意しなければならない点がありますので、その注意点についてわかりやすく解説します。
執行力のある債務名義の正本が必要
第三者からの情報取得手続を申し立てるには、「執行力のある債務名義の正本」を持っていることが必要です。
たとえば、そもそも養育費を決めていないという場合には、強制執行以前の問題として、養育費について取り決めを行う必要があります。
この場合には、弁護士に相談して養育費請求調停の利用を検討すべきでしょう。
また、通常の契約書は債務名義に該当しないので、単純に養育費に関する契約書があるというだけでは不十分です。
債務名義に該当するのは、たとえば以下のようなものです。
- 確定判決
- 和解調書
- 調停調書
- 仮執行宣言付き判決
- 仮執行宣言付き支払督促
- 強制執行認諾文言付き公正証書(執行証書)
既に解説したとおり、養育費が問題になるケースの場合には、弁護士に相談してあらかじめ強制執行認諾文言付き公正証書(執行証書)を作成しておくのがよいでしょう。
正しい管轄裁判所に対して申し立てを行う
改正民事執行法の「第三者からの情報取得手続」を利用する場合、申立人は、正しい管轄裁判所に対して申立てを行う必要があります。
管轄する執行裁判所は、債務者の普通裁判籍の所在地を管轄する地方裁判所とされています(民事執行法204条)。
つまり、以下の順序にしたがって、分かる範囲でその場所を管轄する裁判所に申し立てることになります(民事訴訟法4条2項)。
- 住所
- 日本国内に住所がないときまたは住所が知れないときは、居所
- 日本国内に居所がないときまたは居所が知れないときは、最後の住所
なお、上記のような債務者の普通裁判籍が全くない場合には、情報の提供を命じられき者(市町村、登記所、年金機構、金融機関など)の所在地を管轄する地方裁判所の管轄となります。
まとめ
2022年版の養育費と法律、強制執行、民事執行法、財産開示手続きなどについて解説しました。
養育費の不払いに悩んでいる場合は?
養育費の不払いに悩んでいる方は、弁護士に相談することがおすすめです。
既にわかりやすく解説したように、民事執行法では、養育費の強制執行を円滑に行うためのさまざまな制度が準備されています。
各制度についての申立てを行うのは煩雑ですが、弁護士に依頼をすればスムーズに各制度を利用した上で、養育費の強制執行を行うことができます。
また、これから養育費についての取り決めを行うという方は、将来万が一、不払いが起こってしまった場合に備えておきたいところです。
たとえば、第三者からの情報取得手続をスムーズに利用できるように、強制執行認諾文言付き公正証書(執行証書)を作成しておくことなどが考えられます。
こうした手続きについても、弁護士に依頼をすれば安心です。
元配偶者から養育費の未払金を回収したい場合はどうする?
元配偶者から養育費の未払金を回収したい場合は、着手金0円、成功報酬制の養育費の未払金回収に強い弁護士にご依頼ください。連絡先がわからなくても対応可能、元配偶者に会う必要もないなどのメリットがあります。