離婚時の親権決定や親権変更|子供の意思はどのくらい反映される?

離婚に関する話し合いの際には、子供の親権をどちらが持つかということが大きな問題になります。
どちらの親も親権を持ちたいと考えている場合には、調停や訴訟などで親権の帰属について争わなければなりません。
調停委員や裁判所が、どちらの親に親権を与えるべきかということを判断する際には、子供の意思も一つの重要な考慮要素になります。
この記事では、離婚時に親権をどちらが持つかを決める際に、子供の意思がどの程度反映されるのかということについて解説します。
親権者決定において考慮される要素は?
法律上、親権者を決定するためには、どのような要素を考慮すべきとされているのでしょうか。
たとえば、親権者を変更する際には「子の利益のために必要がある」ことが条件となっています(民法819条6項)。
また、監護権者を決定する際には「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」とされています(民法766条1項)。
このように、子の親権者・監護権者を決定する際には、「子の利益」を基準として決定すべきというのが民法のルールです。
以下では、何が「子の利益」であるかを決定する原則やポイントについて解説します。
親権者決定に関する4つの原則
まず、親権者決定に関して重視される4つの原則を紹介します。
これらの4つの原則は、一般的に言って子の利益になるであろうと考えられる内容をまとめたものです。
そのため、他に特段の事情がなければ、できる限りこれらの原則が実現される側の親に親権が認められる場合が多いといえます。
継続性の原則
離婚によって生活環境が突然変わってしまうと、子供に対して与える影響が大きいといえます。
特に子供がこれまで築いてきた友人関係がリセットされてしまいますし、新しい環境への順応に時間がかかったり、順応がうまくいかなかったりする恐れもあります。
そのため、できる限り子供にとっての現状を維持することを目的として、これまで子供を監護してきた側の親に親権を認める傾向にあります。
兄弟姉妹不分離の原則
子供の人格形成の観点から、兄弟や姉妹がいる場合には一緒に生活をした方が望ましいと考えられています。
そのため、子供が複数いる場合には、どちらか一方の親に親権を集中させる傾向にあります。
母親優先の原則
一般的に、子供の年齢が低いうちは、母親による監護の必要性が高いものと考えられています。
そのため、低年齢の子供については母親に親権を認める傾向があるとされています。
しかし、授乳中であるなどの事情があればともかく、近年では男女平等の流れが加速しています。
そのため、母親優先の原則の重要度は下がっているといえるでしょう。
子供の意思尊重の原則
子供の年齢が高くなればなるほど、自分がどちらの親と一緒に暮らしたいか、どちらの親と一緒にいたほうが良いかということについての判断能力が高まります。
そのため、子供の年齢が高い場合には、子供が選択する方の親に親権が認められる傾向があります。
なお、子供が15歳以上である場合、裁判所が親権や監護権に関する裁判や審判を行う際には、子供の陳述を聞かなければならないものとされています(人事訴訟法32条4項、家事事件手続法152条2項、169条2項)。
このことも、子供の意思尊重の原則の表れといえるでしょう。
親権者を決めるための判断のポイント
上記のように、親権者決定に関する4つの原則はあるものの、結局は具体的な事情を総合的に考慮して、どちらの親に親権を与えるのが良いかが判断されることになります。
考慮要素の例としては、以下のものが挙げられます。
- これまでの監護状況
- 監護に対する意欲と能力
- 経済的・精神的家庭環境
- 居住・教育環境
- 子供の意向、年齢、性別、兄弟姉妹関係、心身の発育状況
- 監護補助者の有無
どの要素がより大きなインパクトを持つかは、子供の年齢によっても変わってきます。
特に、子供の年齢が低い段階では、これまでの監護状況が大きなウェイトを占めると考えられます。
一般的には子供が小さければ小さいほど、環境の変化に敏感であるとされているためです。
一方、子供が大きくなればなるほど、子供の判断能力が高まりますので、子供の意向がより重視されるようになります。
子供の意思は親権者の決定に反映される?子供の年齢別に解説!
そうは言っても、親権者決定の際に子供の意思が重視されるのは何歳くらいからなのか、という疑問を持つ方もいらっしゃるでしょう。
そこで、親権者の決定に子供の意思がどの程度反映されるかについて、大まかな年齢別に見ていきましょう。
子供が0歳~10歳の場合
子供が10歳くらいまでの間は、まだまだ子供の判断能力は十分でないと考えられています。
特に、一方の親から「自分と一緒にいたいと言いなさい」などと圧力をかけられた場合、本心とは違うことを言ってしまう可能性が高いといえます。
そのため、子供が10歳くらいまでの場合は、親権者の決定に関して子供の意思はあまり反映されません。
そうすると、どちらの親がより長い時間子供を監護しているかということが大きなポイントとなります。
世間ではまだまだ母親がより長い時間育児に関与しているという例も多く、また母親優先の原則があることも考慮すると、母親が親権者となるケースの方が多いと考えられます。
子供が10歳~15歳の場合
子供が10歳を超えてくると、ある程度自分で自分の生きる環境を選ぶ力がついてくると考えられます。
子供が10歳から15歳未満の場合、法律上のルールで決まっているわけではありませんが、裁判所は子供の意見を聞き、判断の参考にする傾向にあります。
特に、子供の年齢が上がってくるほど、子供の意思が親権者の決定に反映される可能性が上がります。
しかしこの年代では、子供の意思は一つの考慮要素に過ぎず、監護の継続性や経済状況など他の要素も高い重要性を持ちます。
そのため、仮に子供の意思とは反対であっても、他の要素から客観的により良いと判断された親に親権が認められるケースも多いでしょう。
なお、両親間で監護の継続性や経済状況などの要素にあまり差がなく、子供としてもどちらでも良いという意思を持っている場合であれば、母親に親権が認められる傾向にあります(母親優先の原則)。
子供が15歳~20歳の場合
子供が15歳以上の場合には、一般的に十分な判断能力を備えていると考えられています。
そのため、親権者の決定に際しても、子供の意思が尊重される傾向にあります。
先にも解説しましたが、子供が15歳以上であれば、裁判や審判を行う際に、裁判所は子供の陳述を聞かなければなりません(人事訴訟法32条4項、家事事件手続法152条2項、169条2項)。
言い換えれば、15歳以上の子供の意思については、裁判所は親権者を決定する際に必ず考慮するということです。
もちろん他の要素が重要でないというわけではありませんが、15歳以上の子供については、子供の意思が最大限尊重されるといえるでしょう。
親権者の決定に際しては家庭裁判所調査官による調査が行われる
離婚訴訟などで家庭裁判所が親権者を決定する場合、事前に家庭裁判所調査官による調査が行われます。
一般の方にはあまり馴染みのない存在かもしれませんが、
- 「家庭裁判所調査官」とはどのような人か
- どのような調査が行われるのか
について解説します。
家庭裁判所調査官とは?
家庭裁判所調査官は、家事事件(離婚、親権者の決定など)に関して、親や子供などの関係者を調査し、裁判官が判断をするための材料を提供する役割を担っています。
家庭裁判所は、通常の裁判所とは異なり家庭の問題を取り扱いますので、家庭裁判所に要求される判断は繊細になります。
そのため、それぞれの家庭環境についてきめ細かい調査を行うことが必要です。
家庭裁判所調査官は、家族の問題に寄り添った調査を行う専門官として、家庭裁判所において不可欠な役割を果たしているのです。
全員ではありませんが、臨床心理士の資格を持った人や心理学を学んできた人が多くいます。
家庭裁判所調査官が重視するポイント
離婚で親権が争われている場合、家庭裁判所調査官が調査で重視するのは以下のような点です。
- これまでどちらの親が子供の面倒を見てきたか
- 現在はどちらが子供の面倒を見ているか
- 子供の意思はどうか
親権者を決定する際に裁判所が考慮すべき要素のうち、その他の要素については、客観的な資料から大部分の情報を得ることができます。
しかし子の監護状況は、実際の生活を見てみたり、当事者と顔を合わせてインタビューをしたりしなければ実態を把握することは困難です。
そのため、家庭裁判所調査官の調査は、子の監護状況を中心に行われるのです。
また、子供の意思についても、必要に応じて調査官から聞き取り等が行われます。
単純に「どっちの親と暮らしたい?」と聞くのではなく、子供の話し方や面会交流の観察、祖父母との面談など、場合に応じて適切な方法で子供の意思を酌み取ります。
家庭裁判所調査官との面談
家庭裁判所調査官の調査を受ける際に、実際の状況を取り繕うために嘘をついたりするメリットはありません。
家庭裁判所調査官は、相手や子供からも事情を聞くことになります。
当事者全員の話を総合すれば、嘘はほとんどの場合ばれてしまい、裁判所の心証も悪くなってしまうでしょう。
よって、家庭裁判所調査官の調査には最大限協力的な姿勢で臨み、誠実に質問に回答するべきといえます。
まとめ
親権者を判断する際に重視される考慮要素は子供の年齢によって変化します。
子供が15歳以上であれば、子供の意思が大きく尊重されますが、15歳未満であればそれ以外の要素の重要性が高くなります。
一般的な傾向としては、母親に親権が認められる場合が多いようです。
しかし近年では、父親・母親という区別が本質的に重要とはあまり考えられておらず、それ以外の要素を考慮したうえで、結果的に母親に親権が認められるケースが多いものと考えられます。
そのため、母親に虐待傾向があったり、ある程度年齢が高い子供が父親と一緒に暮らすことを望んでいたりする場合には、むしろ父親に親権が認められる可能性が高いといえるでしょう。
このように、親権問題についてはさまざまな考慮要素が存在しますので、裁判官や家庭裁判所調査官に対して、自分の主張を効果的に伝えることが重要です。
そのためには、弁護士に相談することがおすすめです。
弁護士は、どのような要素が親権者を決定する際に重視されているかを熟知しています。
そのため、依頼者が必要な情報を収集して、効果的に裁判官や調査官に主張を伝えるための大きな手助けとなるでしょう。
離婚問題や親権問題にお悩みの方は、ぜひ弁護士にご相談ください。