婚前契約で夫婦の約束事を決めよう|内容や方法・法律上の注意点

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「婚前契約」という言葉を聞いたことはあるかもしれません。

日本ではまだ広く知られていないかもしれませんが、夫婦が結婚する前に契約を結び、お互いの約束事を明確にしておくことで、円満な夫婦関係を築く一助となることがあります。

婚前契約を法的に有効なものとするためには、法律に従った内容や形式を守る必要があります。

この記事では、婚前契約を締結する際に法的なポイントを理解するために役立つ情報を、分かりやすく解説します。

 婚前契約(夫婦財産契約)とは?

まず、婚前契約がどういうものかについて、基本的な点を解説します。

婚前契約とは?

婚前契約とは、夫婦になろうとする男女が結婚をする前に、結婚に関する約束事を取り決めておくことをいいます。

通常は婚前契約書を作成し、その中に合意した事項を記載することになります。
婚前契約の内容は比較的自由に決めることができます。

たとえば日常生活上の小さな取り決めから、離婚をすることになった場合の財産分与などまで、その内容はさまざまです。

法的に有効な婚前契約は、夫婦の双方を拘束し、それぞれが法律上の義務を負担することになります。
もしどちらかに契約違反があった場合には、相手に対して婚前契約上の約束を守るように請求することができます。

婚前契約の一部として、財産について取り決めることができる(夫婦財産契約)

婚前契約では、夫婦間の財産関係について決めることが多いです。
これを「夫婦財産契約」といいます(民法756条)。

民法上、夫婦間で特に合意をしない場合には、「法定財産制」に従って夫婦の財産関係が決まるとされています(民法755条)。

この法定財産制の具体的な内容は、以下のとおりです。

婚姻費用の分担(民法760条) 夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担するものとされています。
日常の家事に関する債務の連帯責任(民法761条) 原則として、夫婦の一方が日常の家事に関して第三者と取引をした場合には、もう一方もその取引から生じた債務について連帯責任を負います
夫婦別産制(民法762条) 夫婦はそれぞれ個人として、各自の財産を所有することができます
具体的には、①婚姻前から有する財産、②婚姻中自己の名で得た財産は単独所有です。
婚姻中に得た財産で、どちらのものか分からない場合は夫婦の共有財産と推定されます。

夫婦財産契約を締結することにより、夫婦の財産関係を法定財産制とは異なる内容とすることができます。

ただし、後に解説するように、日常の家事に関する債務の連帯責任を排除する内容の夫婦財産契約については、法律上の問題が存在します。
また、こちらも追って解説しますが、夫婦財産契約の内容としては無効となってしまうものも一部存在するので、注意しましょう。
婚前契約書に規定しても無効となる内容」で解説しています。

なお、夫婦財産契約の内容を第三者に対抗(主張)するためには、婚姻の届出までにその内容を登記する必要があります。
そのため、弁護士や司法書士に依頼をして、夫婦財産契約の登記を行うことが推奨されます。

婚前契約を締結する方法

では、具体的にどのようにして婚前契約を締結すればいいのでしょうか。

婚前契約書を作成する|内容は原則自由

婚前契約の内容を明確化し証拠として残しておくためには、婚前契約書を作成することが必須といえるでしょう。

婚前契約書の内容については、法律上無効になるようなものでない限り、原則として夫婦間で自由に取り決めることができます。

たとえば、以下のような内容が考えられます。

  • 家事の分担
  • 子育ての方針
  • 実家や親戚との付き合い方
  • 離婚時の財産分与や慰謝料

婚前契約書の条項を作成する際には、誰がどのような場合に何をする義務を負うのかについて明確に記載するようにしましょう。

具体的な内容や書き方については下記の記事で解説しています。

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婚前契約書作成の手続きは?

婚前契約書を作成する際には、合意内容を書面に書き起こして、夫婦双方が署名・押印をすることになります。

契約書の形式は特に決まっていませんので、パソコンを使って作成したファイルをプリントアウトして使用するなどの方法で構いません。

体裁の整った婚前契約書を作成したいという場合には、公正証書の形式によることも考えられます。
その場合は、公証役場に行って、公正証書作成の手続きを取る必要があります。

作成は弁護士のリーガルチェックがおすすめ

婚前契約書は、当事者の夫婦だけで作成することもできます。

しかし、法的に無効な条項がないかなどのチェックを含めて、しっかりした婚前契約書を作成するためには弁護士などの専門家に依頼をする方が安心でしょう。

婚前契約書を作成するためにかかる期間は、どの程度の分量を想定するか、夫婦間で意見の違いがあるかなどによってさまざまです。

公正証書の形式を取る場合には、公証役場の予約を取る必要があるので、さらにスケジュールが延びてしまうこともあります。

いずれにしても、婚前契約書は結婚生活の約束事を決める重要な契約書です。
そのため、ある程度時間をかけてじっくり検討をしてから作成することをおすすめします。

なお、婚前契約書は、婚姻の届出をする前に作成する必要があります。
婚姻届の提出に間に合うように、余裕を持ったスケジュール管理を心がけましょう。

婚前契約を締結する際の注意点

婚前契約書を作成する際には、法的に無効となる条項がないかを確認する必要があります。

また、婚前契約書を一度締結すると、契約を解除したり変更したりすることには一定のハードルが存在します。

このように、婚前契約を締結する際には、いくつか注意しなければならないことがありますので、それぞれ具体的に見ていきましょう。

婚前契約書に規定しても無効となる内容

婚前契約書に規定する内容は原則として当事者の自由ですが、一部には無効となってしまう条項もあります。

婚前契約書に規定しても無効となる契約条項の例は以下のとおりです。

①公序良俗に反する条項

反社会的な内容の条項や、一般常識からかけ離れた内容の条項は、公序良俗違反として無効になります(民法90条)。

例えば、法外な慰謝料の規定や、将来の離婚を促進するような規定です。

②子供の親権に関する条項

離婚時に子供の親権をどちらに帰属させるかについて争いがある場合、家庭裁判所が離婚当時の事情を総合的に判断して、どちらに親権を認めるかを裁量によって決定します。

厳密にいえば、無効となるわけではありませんが、婚前契約書で子供の親権についてあらかじめ規定したとしても、その内容が家庭裁判所を拘束することはありません。

③法律上の強行規定に反する条項

法律の中には、契約によっては置き換えることができず、強制的に適用されると解されている規定が存在します。
これを「強行規定」といいます。

強行規定の内容と矛盾する婚前契約書の条項は無効となります。
例えば「離婚後は養育費を一切払わない」などは強行規定違反で無効となります。

④日常の家事に関する債務の連帯責任を排除する条項

民法761条は、夫婦関係を円満に維持・運営するための条項ですが、第三者に対する責任として、夫婦の日常の家事に関する債務の連帯責任を定めています。

この規定は、婚前契約書の一部を構成する夫婦財産契約(民法756条)によっても排除できないと解されています。

単独では婚前契約を解約することはできない

婚前契約は、夫婦双方の合意に基づいて成立する契約です。

したがって、どちらか一方の意思だけでは、婚前契約を解約することはできません。

なお、民法754条は「夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。」と規定しています。
しかし婚前契約は、実際に夫婦になる前に締結するものなので、「夫婦間でした契約」に該当しません。
そのため、民法754条は適用されないことになります。

婚前契約を解約するには、夫婦双方の同意が必要となる点に注意しましょう。

 婚前契約書の条文を追加・修正・変更をしたいときは?

婚前契約の解約と同様、条文の追加・修正・変更などを行う場合にも、夫婦双方の同意が必要となります。

このことを確認するために、婚前契約書の中で「契約の変更などは、夫婦双方が協議の上でこれを行う」という趣旨の文言を規定することもあります(特に必須というわけではありません)。

ただし、婚前契約に特有の注意点として、夫婦財産契約に関する規定を変更することはできないという点が挙げられます。
これは、民法758条1項が「夫婦の財産関係は、婚姻の届出後は、変更することができない。」と定めていることが理由です。

よって、婚前契約に夫婦財産契約に関する規定を盛り込む際は、事前に十分な検討が必要でしょう。

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婚前契約を締結するメリット

婚前契約は、夫婦関係を契約で縛るという意味で一見ドライに思えてしまい、抵抗があるという方も多いかもしれません。

しかし、婚前契約を締結することには以下のようなメリットがあります。

円満な夫婦関係を維持する助けとなる

婚前契約を締結することは、さまざまな場面で円満な夫婦関係を維持する助けとなります。

婚前契約の内容を夫婦で考える際には、お互いの価値観や考え方を打ち明け合ってすり合わせる必要があります。
このプロセスを通じて、結婚前にお互いのことをより深く知ることができるでしょう。

また、婚前契約の中でも重要な財産についての話し合いを行う際には、お互いの持っている財産を開示する必要があります。
そのため、結婚したあとで借金が判明したり、予想よりも経済的に苦しかったりすることが少なくなります。

更に、不倫を原因として離婚をする際の慰謝料を事前に決めておけば、不倫に対する精神的なブレーキが働くことが期待されます。

また、結婚前に合意した婚前契約の内容は、実際に夫婦生活を送る中で見直す必要が生じる可能性が高いといえます。

婚前契約の内容を見直す中で、改めて夫婦生活のあり方について考える機会が生まれ、夫婦関係がさらにより良い方向へ進展するかもしれません。

離婚時のトラブルを回避できる

さらに、婚前契約では離婚時の財産分与や慰謝料について、あらかじめ決めておくことができます。

通常のケースでは、離婚時に財産の問題で揉めてしまうことが多いといえます。
しかし、婚前契約で事前に処理方法が決まっていれば、離婚時の財産問題に関するトラブルを回避できる可能性が高いでしょう。

まとめ

結婚前に夫婦の約束事を決めておく「婚前契約」は、日本ではあまり普及していませんが、夫婦関係を円滑にするための助けになる場合もあります。

より納得がいく夫婦生活を送りたい、夫婦間のトラブルをできる限り事前に防ぎたいという方は、婚前契約書の作成を検討してみてはいかがでしょうか。

婚前契約書を作成すべきかどうか、または作成したいけれどどうしたら良いかがわからないという方は、弁護士に相談をすれば適切なアドバイスを得られるでしょう。

婚前契約に関して興味のある方は、ぜひお気軽に弁護士にご相談ください。

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監修・執筆
阿部由羅(あべ ゆら) 弁護士
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。一般民事から企業法務まで、各種の法律相談を幅広く取り扱う。webメディアにおける法律関連記事の執筆・監修も多数手がけている。
■URL https://abeyura.com/lawyer/

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