開業医特有の離婚問題と注意点まとめ|財産分与や医療法人はどうなる
開業医の離婚は、勤務医に比べて、問題が複雑化する可能性が高いです。この記事では、開業医が離婚をする際の特有の問題や注…[続きを読む]
医師は一般的に多忙であるがゆえに、配偶者と離婚してしまうケースも比較的多い傾向にあります。
特に医師の場合は、収入や資産が多いため、養育費・婚姻費用・財産分与に関する話し合いが複雑になってしまうこともしばしばです。
医師が配偶者と離婚することを検討するときは、離婚に際して問題になりやすい点を正しく把握し、事前にしっかりと対策を取っておきましょう。
この記事では、医師の離婚に特有の問題や、離婚に当たって論点となるいくつかのポイントなどについて分かりやすく解説します。
目次
まずは、一般的な離婚とは異なり、医師の離婚に見られる特徴的な問題や事例についていくつかご紹介します。
一般的に医師の収入は高いため、月々配偶者に支払う生活費も高額になる傾向にあります。
特に配偶者の収入が少ないか、または専業主婦(主夫)であるような場合には、離婚をしてしまうと、それ以降は以前と同様の生活水準を維持することは困難になるでしょう。
そのため、医師が望んだとしても、配偶者の側がなかなか離婚に応じてくれず、婚姻費用だけがかかってしまうという可能性は十分に考えられます。
配偶者の実家が経営する医院を継ぐことを前提として結婚したようなケースでは、配偶者の両親と養子縁組をする場合があります。
他にも、配偶者の両親について相続が発生した場合に備えて、法定相続人としての権利が得られるようにすることを目的としたケースも存在します。配偶者の両親と養子縁組をしている場合には、配偶者と離婚をしたとしても、養子縁組の方も解消されるというわけではありません。
養子縁組は、離縁の手続きにより解消する必要があります。
養親・養子の間で協議が調えば離縁をすることができますが(民法811条1項)、協議が調わない場合には家庭裁判所での調停・審判または裁判上の離縁が必要になります。
裁判上の離縁には一定の理由が定められており(民法814条1項)、「配偶者と離婚した」こと自体が離縁事由にはなっていません。ただ、離婚事由があり、離婚に至っている場合には、「縁組を継続し難い重大な事由」(民法814条1項3号)に該当するとして、離縁が認められるケースもあります。
配偶者と離婚をしたのに、配偶者の両親との間の養子縁組が解消できないとなると、後からさまざまな問題が発生しかねません。
たとえば別れた配偶者の両親から扶養を求められたり、別れた配偶者の両親が自分の相続人になったりすることなどが考えられます。
いずれにしても、配偶者の両親と養子縁組をしているケースでは、離婚・離縁に関する手続きが複雑化する傾向にあります。
そのため、事前に弁護士に相談しておくのが賢明でしょう。
開業医の場合には、勤務医に比べてさらに離婚に関する問題が複雑になる可能性が高いといえます。
たとえば配偶者の両親から開業に当たり援助金をもらっている場合には、配偶者の両親から返金を求められるかもしれません。また、配偶者が自分の経営する医院の事業に協力している場合などには、離婚に伴って配偶者の地位をどうするのかという問題も発生します。
このように、開業医特有の離婚問題も数多く存在します。
詳しくは以下の記事で解説しているので、この記事と併せてご参照ください。
離婚の際に大きな問題となるのが、婚姻費用と養育費です。
婚姻費用とは、結婚しているものの別居している期間の生活保障のため、夫婦間の扶養義務に基づき支払われる金銭のことです。
一方養育費とは、離婚後の子どもの養育に必要な費用として、子どもと同居していない親から親権者に対して支払われる金銭をいいます。
医師がこれらを支払う側(支払い義務者)になった場合は、収入が高いため、婚姻費用と養育費の金額も高額になる傾向にあります。
婚姻費用と養育費を具体的に算定する際には、裁判所が公表している「養育費・婚姻費用算定表」が用いられます。
【参考】裁判所:養育費・婚姻費用算定表
婚姻費用と養育費を決定する際には、子どもの人数と年齢から適切な表を選択し、夫婦双方の収入を用いて、その表に従って養育費の金額が算定されるのが一般的です。
しかし、養育費・婚姻費用算定表では、支払い義務者について、給与所得者(勤務医)の収入は2000万円、自営業者(開業医)の収入は1567万円までしか記載されていません。
医師の場合は上記を超える収入を得ている場合もしばしばありますが、その場合には、単純に算定表に従って婚姻費用と養育費の金額を算定することはできないのです。
収入が算定表の上限金額を超えた場合に、婚姻費用と養育費の金額をどのように算定するかについては、裁判所でも統一的な考え方はありません。
どのように婚姻費用と養育費の金額を算定すべきかは、どの程度の高額所得者であるのかや、同居中における生活状況等も考慮して判断されることになります。
相手方や裁判所を説得して有利な結果を得るためにも、弁護士に相談して話し合いや手続きを進めることをお勧めします。
医師の家庭では、収入が多い分、進学費や教育費に支出するお金の余裕があるケースも多いでしょう。
例えば、子どもをインターナショナルスクールに通わせたり、私立の中高一貫校へ進学させたり、これらに必要な塾に通わせたりするなど、進学費・教育費が高額になる傾向にあります。
また、親が医師であることに影響を受けて、将来医者になりたいと考える子どももいます。その場合には、医学部専門予備校の費用や医学部の学費(私立大学の場合は特に高額)、生活費の仕送りなどもかさんできます。
養育費の算定表で求められる金額には、こうした進学費・教育費は元来含まれていません。
そのため、進学費や教育費を上乗せした養育費の支払義務が認められるには、然るべき主張をする必要がありますので、こういったケースでも一度弁護士に相談されることをお勧めします。
財産分与の問題も、離婚に当たって一般的に問題となる論点のひとつです。
医師の家庭が離婚をする場合には、財産分与に当たって特別に考慮すべき論点が存在するので、その点について解説します。
財産分与とは、夫婦が共同で築き上げてきた財産を分ける目的で行われます。そのため、財産分与の対象となる財産の2分の1ずつを夫婦双方が取得できるように、財産が多い方から少ない方へと分与するのが原則です。
しかし、医師のような専門性の高い特殊な技能を持つ職業に就き、高額の財産を獲得したのだとすれば、それは本人の努力による部分が大きいことも事実です。
この場合、財産分与の割合は必ずしも2分の1ずつになるとは限らず、以下の裁判例のように傾斜を付けた割合が認定されるケースもあります。
原則として財産分与の割合は2分の1ずつと解するのが相当としたうえで、夫が医師の資格を獲得するまでの勉学などについて婚姻前から個人的な努力をしてきたことや、婚姻後も医師として多くの労力を費やして高額の収入を獲得したことなどを踏まえて、夫と妻の財産分与割合を6対4としました。
夫が多額の財産を所有するに至ったのは、夫の医師・病院経営者としての手腕や能力によるところが大きいとして、1億円を超える診療報酬収入があり、個人の資産も1億円を超え、個人経営と大差のない実情の医療法人の資産も1億円を超えている事案で(ただし、負債もあり)、2分の1を基準とするのは妥当性を欠くとして、妻の受け取れる財産分与の額を2,000万円としました。
このように、医師の離婚のケースで財産分与割合が認定される際には、夫婦双方が財産の形成にどの程度寄与したのかということが具体的に考慮される傾向にあります。
納得できる財産分与割合の認定を受けるためにも、弁護士に相談することをおすすめします。
医師の場合、さまざまな形で資産を分散させて所有しているケースも多いことから、財産分与の対象となる財産の範囲を定めるのも一苦労となります。
財産分与を受ける側(多くの場合は医師でない方)が、支払う側に対して財産開示を求めて争うケースもしばしばです。
財産開示の請求があった場合には、財産分与の対象となる財産を適切に見極めたうえで、開示する必要のある財産は速やかに開示しなければなりません。万が一隠し財産があることが判明した場合、財産分与がやり直しになってしまうだけでなく、損害賠償責任を負ってしまう可能性もあるので、十分注意しましょう。
どのような財産を開示すべきかについては、事前に弁護士に確認をして対応するのが賢明です。
また、財産分与の対象となる財産については、必ずしも価値が明確なものばかりとは限りません。
たとえば不動産、未上場株式、貴金属、時計、絵画などは、専門的な観点から価値を評価する必要があります。対象財産の価値評価についても、一度弁護士に相談したうえで、必要な専門家へのアクセスを試みることをおすすめします。
開業医の場合には、財産分与に当たってさらに追加で考慮すべき事項がいくつかあります。
たとえば、医療法改正により、平成19年4月1日以降は、出資持分ありの医療法人を新規に設立することはできなくなりました。しかし、それ以前から存在する医療法人の中には、「持分あり」医療法人が多数存在します。
婚姻後に設立された医療法人の出資持分は財産分与の対象となり、財産分与額の算定基礎となるため、実際に分与を行う前に、病院経営に支障が出ないかなどについてよく確認しておく必要があります。
また、開業医の場合は、個人の財産とは別に医療法人の財産も同時に管理していることになります。
個人財産と医療法人財産の区別があいまいになっていることもしばしばで、財産分与の際には両者をきちっと区分けすることが必要です。
開業医の離婚問題については以下の記事で詳しく解説しているので、併せてご参照ください。
慰謝料と親権についても、離婚の際の重要な問題です。
もっとも慰謝料と親権は、医師の離婚の場合でも一般の離婚のケースと大差はありません。
慰謝料は、離婚の場合に常に認められるというわけではありません。
しかし、離婚の原因となった個別の有責行為について不法行為が成立する場合などには、これまで解説した婚姻費用・養育費・財産分与とは別に慰謝料が認められるケースがあります。
離婚の慰謝料については、以下の記事で詳しく解説しているので、併せて参照してください。
クリニックなどを経営する医師の場合、子どもを後継者とするため、親権を強く欲するケースもあるでしょう。
親権者をどちらの親に定めるかについては、夫婦間の協議で決定することができますが、協議が調わない場合には家庭裁判所の職権で決定されます。
どのように親権が定まるかについては、以下の記事も併せて参照してください。
医師の離婚は複雑になりがちなため、専門家である弁護士に相談することをおすすめします。
医師の離婚を弁護士に任せる場合、以下のようなメリットを受けることができます。
婚姻費用・養育費・財産分与は、いずれも離婚における典型的な問題ですが、高収入の医師が離婚する場合には金額も大きくなりやすく、揉めてしまうポイントになりがちです。
また、ご説明してきたように、収入等により一般的な考慮とは異なる場合も多いです。
離婚に関する交渉や、家庭裁判所の手続きにおいて、相手方や裁判所を効果的に説得するためには、法的な観点を踏まえた説得力のある主張を行う必要があります。
そのためには、離婚事件に強い弁護士から専門的なアドバイスを受けることが大きな助けとなるでしょう。
医師に専門分野があるように、弁護士にも専門分野があります。特に医師の離婚事件について経験豊富な弁護士に相談されることをおすすめします。
冒頭でも解説したように、医師の側に離婚の意思があっても、相手方が離婚に応じないケースが多く見られます。
この場合、当事者同士で話し合いを行っても平行線をたどるばかりでしょう。
離婚協議の段階から弁護士に交渉を任せれば、法的に妥当な交換条件を提示するなどの方法により、当事者による話し合いに比べて、離婚に関する話し合いが進展することを期待できます。
話し合いだけでは離婚協議がまとまらない場合には、やむを得ず調停などの法的手段に移行するケースもあります。
その場合でも、弁護士に依頼をしておけば、医師側の主張を整理したうえで、裁判官・調停委員や相手方に対して説得的な主張を展開してくれます。
また、万が一多忙で期日に出席できない場合にも、弁護士に代理人として出席してもらうことができます。
医師は高収入がゆえに、離婚に際しては協議が難航し、問題が複雑化してしまうケースがあります。
離婚に関する話し合いや調停・裁判などの手続きを有利に進めたい場合は、お早めに弁護士に相談することをお勧めします。