別居したら何年で離婚できるの?離婚と別居の関係や別居前の準備とは
今回は配偶者との離婚を考え、別居に関する様々な悩みを持っていらっしゃる方に、別居と離婚の関係性から別居する前の大切な…[続きを読む]
夫やうつ病にかかってしまい働かなくなったり、また夫のせいでうつ病になった疲れた妻などもいて、互いに一緒にいるのが辛いという方もいらっしゃるでしょう。
また、うつ病になって疲れて離婚したがる方もいるかもしれません。このような場合に、離婚が頭をよぎってしまうのも無理はありません。
うつ病を理由とした離婚が認められるかどうかに関しては、法律的には難しい問題があります。
また、法律の観点とは別に、離婚後のうつ病の配偶者をどのようにケアするかという問題からも、目を背けることはできません。
そのため、うつ病の夫・妻との離婚を検討する場合には、事前に総合的な検討・準備を行っておくことが大切です。
この記事では、うつ病の配偶者との離婚、慰謝料、親権に関して詳しく解説します。
そもそも、夫や妻がうつ病であることへの疲れを理由にした離婚は可能なのでしょうか。
この点、協議離婚や調停離婚の場合には、当事者双方が離婚に同意さえすれば、理由のいかんを問わず離婚が成立します。
これに対して、離婚訴訟で裁判上の離婚を目指す場合には、民法770条1項に規定される離婚事由の存在が必要です。
以下では、配偶者のうつ病が裁判上の離婚に関する離婚事由に該当するのかどうかについて解説します。
うつ病が関係する離婚事由には、以下の2つがあります。
民法第770条1項(裁判上の離婚)
夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一~三 略
四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき。
五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
結論から言えば、配偶者がうつ病であるというだけでは、上記の離婚事由に該当しない可能性が高いと考えられます。
民法770条1項4号の「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき」との関係では、一般にうつ病は治癒可能な疾病と考えられているので、「回復の見込みがない」とまではいえません。
また、配偶者のうつ病が「婚姻を継続し難い重大な事由」に該当するかどうかについては、夫婦に相互扶助義務(民法752条)がある以上、基本的にはうつ病の配偶者をサポートすべきという要請が強いといえるでしょう。
したがって、次の項目で解説するような別の事情がある場合は別として、配偶者がうつ病であるというだけで離婚事由に該当する可能性は低いと考えられます。
夫や妻がうつ病で疲れたとあるだけでは、離婚事由として不十分でも、うつ病から派生したさまざまな事情から、婚姻を継続することがうつ病でない側にとって酷であると判断される場合には、「婚姻を継続し難い重大な事由」の存在が認められる可能性があります。
たとえば以下の場合には、「婚姻を継続し難い重大な事由」の存在が認められる可能性が高いでしょう。
なお、別居期間と離婚事由の関係については、以下の記事も併せてご参照ください。
うつ病の配偶者が離婚を拒否しているにもかかわらず、何とか離婚を成立させたいと考える場合には、相当に入念な準備が必要となります。
以下では、離婚を拒否するうつ病の配偶者と離婚をしたい場合に取るべき3つのステップについて解説します。
まずは、配偶者がうつ病で疲れているなら、治療にできる限り協力したり、配偶者の話を根気強く聞いて精神安定を図ったりするなど、回復のためにできる限りの手を尽くしましょう。
もしうつ病が根治すれば、そもそも離婚をしたいという気持ちがなくなるかもしれません。
仮にうつ病が治らなかったとしても、長期間のサポートを行ってもなお回復の兆しが見えなかったという事実は、「婚姻を継続し難い重大な事由」を基礎づける方向に働きます。
逆に、うつ病の配偶者のケアを怠り、我関せずと配偶者を放置したり、家を出たりした場合、ご自身に「悪意の遺棄」があったと判断されるおそれがあります。
悪意の遺棄を行った者は「有責配偶者」として、離婚請求が原則として認められなくなってしまうため要注意です。
裁判上の離婚を成立させるためには、離婚事由を証明するための証拠を集めなければなりません。
たとえば前述のように、「配偶者の回復のために尽力したが、回復の見込みがない」ということを示す証拠としては、次のものが考えられます。
できる限り豊富に証拠を集めて、「手段を尽くしたもののお手上げである」ことを裁判官に印象付けることが大切です。
それ以外にも、うつ病の配偶者からDVを受けていたケースでは、以下のような証拠が有効に働きます。
離婚事由が認められたとしても、離婚はうつ病の配偶者にとって酷であると裁判所が判断した場合には、離婚請求が棄却されてしまうケースがあります(民法770条2項)。
そのような事態にならないように、離婚後もうつ病の配偶者がきちんと生活しておけるような環境を整えておくことが大切です。
これは道義的にも推奨されることでしょう。
たとえば離婚の際に財産を多めに渡したり、実家での生活を促して両親からのサポートを受けさせたりする方法が考えられます。
また、配偶者が利用できる障害年金などの公的支援制度があれば、それらの利用を配偶者に促すことも有効でしょう。
うつ病の配偶者に疲れた結果、離婚するための手続きには、
の3つがあります。
それぞれの手続きの内容を詳しく見ていきましょう。
円満な離婚を目指すためには、まずは協議離婚を試みることになります。
離婚をすること自体について、離婚の条件を提示しながら配偶者を説得しましょう。
協議離婚で定めておくべき離婚の条件には、以下のものが挙げられます。
ただし、うつ病の配偶者と離婚の話し合いをする際には、たとえ疲れてしまっても、配偶者の病状に十分配慮して進める必要があります。
これはモラルの問題にとどまらず、夫婦の相互扶助義務(民法752条)の観点からも重要です。
また、病状が深刻な状態で離婚協議を行った場合、仮に離婚に関する同意が得られたとしても、配偶者の意思表示の有効性が後から争われてしまう懸念があります。
配偶者の病状への理解・配慮を示しつつ、離婚後の不安を取り除くことができる提案をすれば、配偶者の側としても離婚に同意しやすくなるでしょう。
たとえば配偶者の担当主治医に対して、現時点で離婚を切りだすことが病状に影響するのかを確認して、様子を見ながら話し合いを進めるなどの配慮をしましょう。
離婚に関する協議がまとまらない場合は、離婚調停を申し立てましょう。
離婚調停では、調停委員が夫婦の間に入って、双方の言い分を個別に聞きながら、離婚を成立させるための落としどころが探られます。そして、夫婦双方が離婚に同意した場合は、調停離婚が成立します。
離婚調停の詳しい流れなどについては、以下の記事を併せてご参照ください。
離婚調停が不成立に終わった場合は、裁判(訴訟)で離婚を争うことになります。
離婚訴訟では、離婚事由の存在を証拠によって立証する必要があります。
配偶者がうつ病であるというだけでは離婚事由として認められない可能性が高いので、それ以外の事情で離婚事由として認められるものがないかを、弁護士に相談して事前によく検討しましょう。
離婚訴訟の詳しい流れなどについては、以下の記事を併せてご参照ください。
配偶者がうつ病である場合、離婚の条件面を中心にさまざまな疑問があると思います。
以下では、うつ病の配偶者に疲れた場合、離婚をする際のよくある疑問をいくつかピックアップして、法律的な問題も含めて分かりやすく考えてみましょう。
法律的には、配偶者のうつ病が離婚の原因になったというだけでは、配偶者に対して離婚の慰謝料を請求することはできない可能性が高いです。
離婚の慰謝料は、相手方の不法行為(民法709条)により受けた精神的苦痛を補填するという意味合いを持ちます。
そして、離婚の原因を作ったことが不法行為と認められるのは、DVが行われたり、突然家を出て家族を見捨てたりしたような、よほどひどい例外的な場合に限られるのです。
そのため、単にうつ病を発症したというだけでは、それが事実上離婚の原因になったとしても、不法行為であるとまでは評価できず、慰謝料の請求も認められないでしょう。
たしかに、子どもをしっかり育てていく能力があるかどうかは、子の親権を決定するうえで重要な要素です。
しかし、親権をどちらに認めるかを判断する際には、子の利益がもっとも優先して考慮されます(民法766条1項、2項)。
具体的には、以下に挙げられるような要素を総合的に考慮して、どちらが子にとって親権者として望ましいかが判断されることになります。
・子どもを育てていく時間的、経済的な余裕
・子どもを育てていく意欲
・転校など環境の変化が起こるかどうか
・母親優先の原則(特に子どもの年齢が低い場合)
・子どもの意思(子どもがある程度以上の年齢の場合)
うつ病の病状が深刻であり、子どもを育てるのに支障が生じるレベルに達している場合には、上記の観点から、うつ病の配偶者に親権が認められる可能性は低くなります。
一方、うつ病の症状が軽度な場合は、それだけで親権が認められないということはなく、それ以外の事情と併せた総合的な考慮のうえで親権者が決定されます。
親権を持たない親の養育費の支払い義務は、親の子に対する法律上の扶養義務(民法877条1項)に基づいて発生します。
仮に親がうつ病にかかっていたとしても、親としての子の扶養義務がなくなるわけではないので、養育費の支払い義務はあるということになります。
ただし、父・母がどのように扶養義務を分担するかは、それぞれの収入に応じて決定されます。
そのため、うつ病の配偶者が退職を余儀なくされて無収入の場合には、養育費の支払いを受けることは難しいでしょう。
なお、離婚後にうつ病が治癒して復職した場合には、事情変更を理由として「養育費請求調停」を申し立て、改めて養育費の金額を決定しなおすことが可能です。
この場合、ご自身の側に不法行為があり、かつ不法行為と自殺の間の因果関係が認められるかどうかがポイントとなります。
一般的には、離婚を切り出したこと自体が不法行為に該当することはないと考えられます。
ただし、うつ病の配偶者に対するDVやモラハラの事実があったり、配偶者の看病を完全に放棄していたりするなど、悪質な事情が併せて認められる場合には、不法行為に該当すると判断される余地があるので注意が必要です。
いずれにしても、うつ病の配偶者に対して離婚を切り出す際には、病状に対する十分な配慮を尽くすことが大切といえるでしょう。
うつ病の配偶者との離婚、慰謝料や親権についても解説しました。結婚生活を続けていくことはつらい面が大きく、一刻も早く離婚したいと考える方も少なくありません。
しかし、安易に離婚を切り出すのではなく、配偶者の病状に配慮しながら、スムーズに離婚に同意してもらえるような環境を整えていくことが結果的には離婚に向けての近道になります。
うつ病の配偶者と離婚をしたいとお考えの方は、一度弁護士にご相談ください。