失踪・家出と離婚|帰ってこない旦那と離婚する方法を解説

  • 旦那が家出して帰ってこない。離婚できるの?
  • 夫が失踪して音信不通で行方不明

このようなケースの夫婦もいるかと思います。これが1週間程度だったらまだ良いのですが、一ヶ月帰ってこない、また完全に音信不通だといったケースがあります。

配偶者が失踪して行方不明になってしまった状態が何年も続くことは、残された方にとって大変な苦痛です。

もはや結婚を解消してしまいたいと希望することも無理はありません。しかし、相手が行方不明では協議離婚ができません。

では、どのような方法で婚姻を解消できるのでしょうか?

この記事では、「公示送達による離婚」と「失踪宣告」という2つの方法についてご説明します。

旦那が家出!失踪した配偶者と別れる2つの方法

旦那が失踪して音信不通・行方不明である以上、離婚届を作成して役所に提出する協議離婚は不可能です。

離婚届用紙に、勝手に相手の署名・捺印をしてしまって提出しようと考える方がいますが、これは私文書偽造罪(刑法159条1項)、偽造私文書行使罪(同161条1項)、公正証書原本不実記載罪(同157条1項)という犯罪です。

例えば、失踪した配偶者が戻ってきて発覚すれば刑罰を科せられる危険があります。絶対にやめましょう。

このような危ない橋を渡らなくとも、婚姻を解消できる正当な方法は以下の2つがあります。

  • 「公示送達」を利用した離婚訴訟で離婚を認める判決をもらう
  • 「失踪宣告」を出してもらい、家出した配偶者が死亡したとみなしてもらう

以下で順番に解説します。

行方不明・音信不通の旦那と離婚!公示送達による離婚訴訟

配偶者が行方不明で音信不通の旦那と協議離婚も調停離婚もできない場合、離婚訴訟によって裁判所に離婚を認めてもらうことができます。

実は、公示送達という手続を利用することで相手が行方不明でも裁判が可能なのです。

ただし、裁判による離婚(裁判離婚)が認められるには、法定の離婚原因が必要です。
そこで、まず家出・失踪が離婚原因となるかどうかについて解説します。

失踪は離婚原因となる

3年以上の生死不明

離婚原因の1つに、「配偶者の生死が3年以上明らかでないとき」(民法770条1項3号)があります。
これは最後に生存を確認できたときから、生死が不明な状態が3年間継続した場合であり、理由の如何を問いません。

したがって、長期間の失踪の場合は、これを離婚原因として主張することになるでしょう。

その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき

法定の離婚原因は例示であり、それ以外でも、結婚生活を継続することができない重大な事由があって、既に婚姻生活が破綻している場合には裁判離婚が認められます(民法770条1項5号)。

そこで、最終の生存確認から3年を経過していない場合でも、事案によっては、婚姻を継続し難い重大な事由だと主張することが考えられます

例えば、夫が度々家出して音信不通のまま放浪しては帰宅することを繰り返してきた過去があり、今回もまた居なくなり、まだ1年しか経っていないが、もはや結婚生活を続けることは耐えられないという場合などは、この事由として主張することが考えられます。

悪意の遺棄にあたるか?

また、「配偶者から悪意で遺棄されたとき」(民法770条1項2号)という離婚原因もあります。

「遺棄」とは、同居し互いに協力し扶助する義務(752条)、婚姻費用を分担する義務(760条)という、夫婦間の義務を果たさず、他方を放置して共同生活をしないことです。

ただ「悪意」とは、たんなる義務違反ではなく、それによって婚姻生活が破綻することを積極的に意図していることを指すと理解されています。
したがって、配偶者が婚姻生活を終わらせるために積極的に失踪したことが明らかであれば、悪意の遺棄に該当します。

しかし、どのような理由で失踪したのかも不明な場合は「悪意」ではない可能性もあるため、離婚原因には該当しません。
例えばどこかで犯罪被害に遭ったケースなどは悪意とは言えないでしょう。

失踪という場合、残された一方には、失踪の原因はわからないことがほとんどでしょうから、悪意の遺棄を主張することは難しいことが多いです。

裁判離婚の提訴と流れ

失踪が離婚原因に該当する場合、家庭裁判所に対し、裁判離婚を求めて離婚訴訟を提起することになります。
以下では、配偶者が失踪している場合の離婚訴訟について詳しくご説明します。

上申書の提出による付調停の回避

離婚では、いきなり離婚訴訟を提起しても、離婚調停に回されてしまう調停前置主義(家事事件手続法257条1項)が原則ですが、提訴にあたり、相手が失踪中であることを説明する上申書を提出することで、離婚訴訟として受理してもらえます(同257条2項ただし書)。

公示送達の手続

離婚訴訟を受理した裁判所は、被告に訴状を郵送して訴えの内容を知らせ、同時に裁判の期日に出頭するよう呼び出します(民事訴訟法138条1項、139条)。

この郵送は、被告に争う機会を保障する観点からも非常に重要なので、「送達」と呼ぶ特別な方式(同法98条以下)が決められていますが、被告が失踪しているときは現実の郵送ができません。
そこで、このような場合「公示送達」という手続が用意されています(同法110条、111条)。

公示送達とは、簡単に言えば、裁判所の掲示板に事件番号や原告被告名を示して、「書類を受け取りに来てください」という書面を掲示し、2週間経っても書類を受け取りに来ないときには「送達」されたものとみなす制度です。

被告が失踪している場合の離婚訴訟では、この「公示送達」を利用することができますが、提訴にあたって、原告が被告の住所や勤務先を調査し尽くしたが不明であったことを報告書として提出することが必要です(同法110条1項1号)。

特に離婚訴訟の判決は、当事者の親族との身分関係にまで効力が及ぶ(人事訴訟法24条1項)ので、親族にも被告の行方を照会し尽くしたことまで要求されます。

第1回期日だけで結審

公示送達の掲示から2週間しても被告が書類の受取に現れないと、送達されたとみなされて、裁判手続が進み、第1回期日が指定されます。
第1回期日に出頭しても、もちろん失踪している被告は欠席ですし、被告側からは訴状に対する答弁書を含め、何らの書類も提出されていないでしょう。

配偶者が失踪している場合の第1回期日では、原告提出の証拠書類を取り調べ、多くの場合、原告本人尋問が実施されます。

もっとも被告や被告代理人弁護士はいないので、原告代理人弁護士や裁判官の質問に答えるだけです。本人訴訟であれば裁判官の質問に答えるだけです。
尋問の内容は、原告主張の離婚原因が事実かどうかの確認であり、被告の反論があるわけではないので、特に問題はなく短時間で済みます。

本人尋問が終われば結審し判決期日が指定されます。判決内容は、もちろん原告の勝訴で離婚を認める内容です。

判決言渡しの日から14日間を経過すると判決が確定しますので、裁判所から送られてくる判決書謄本と、裁判所に申請して発行を受ける確定証明書を持参して、10日以内に市町村役場の戸籍係に離婚の届出をします(戸籍法77条1項、63条1項)。

一般の訴訟では、被告が答弁書すら提出せずに欠席すると、原告の主張を認めたとみなされ、そのまま敗訴となります。
これを「擬制自白」と言います(民事訴訟法159条3項本文、同1項本文)。
訴えの内容を訴状の送達で知らされた被告が出頭や答弁書の提出によって争う姿勢を示さない以上、原告の主張を認めたものとみなせるからです。しかし、公示送達では、実際には被告は訴えの存在自体を知らないので、擬制自白の適用はなく(同法159条3項但書)、裁判官は証拠調べ手続を行って原告の主張が真実か否かを判断しなくてはなりません。しかも、そもそも離婚訴訟は身分関係の確定という公益性のある問題を対象とするので、裁判官は当事者の主張にとらわれず、主張のない事実も調べ得る職権探知主義が採用されており(人事訴訟法20条)、この観点からは、公示送達であるか否かを問わず証拠調べ手続を実施することが要請されます。そのため、先ほど述べたように原告本人尋問などを行うということになります。

失踪宣告

失踪した配偶者との婚姻関係を終了させるもうひとつの方法が「失踪宣告」です。

こちらは「離婚」ではありません。失踪した配偶者を法律上「死亡」したものとみなしてもらうことで、婚姻関係を終わらせるものです。

失踪宣告とは

失踪宣告とは、生死不明な状態が一定期間継続した者がいる場合に、利害関係者からの申立てを受けた裁判所が、その者が法律上は死亡したとみなす制度です(民法30条)。この制度には、「普通失踪」と「特別失踪」の2つがあります。

普通失踪は、7年間生死不明のときに失踪宣告をしてもらうものです。最後に本人の生死が確認された日から7年が経過した日に死亡したとみなされます(民法30条1項)。

特別失踪は、戦争・船舶の沈没・天災などの危難に遭遇した者が、危難が去ってから1年間生死不明のときに失踪宣告をしてもらうものです。危難が去った時点で死亡したとみなされます(民法30条2項)。

失踪宣告で婚姻は当然に解消される

配偶者に対する失踪宣告の審判(家事事件手続法39条、別表第1の56項)が確定することで配偶者は死亡したとみなされるので婚姻は終了します(※)。

※実は、配偶者の片方が死亡した場合に婚姻が終了することについては法律に明文の規定はありませんが、このことは当然のこととして理解されています。そうでないと他方の配偶者が再婚することは、重婚の禁止(民法732条)に違反してしまう一方、死亡した配偶者を相手に離婚訴訟を提起することもできないため、残された配偶者の再婚が不可能という不合理な結論になってしまいます。

失踪宣告の影響

失踪宣告の影響① 相続が発生する

失踪宣告を受けた者は死亡とみなさるため、その者を被相続人とする相続が発生します。
残された配偶者は法定相続人となります(民法890条)。

なお、失踪宣告と相続についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

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失踪宣告の影響② 財産分与請求はできない

失踪宣告による婚姻の解消は離婚ではありませんから、財産分与請求はできません。

失踪宣告生きていた・帰ってきた|婚姻はどうなる?

実際には失踪した配偶者が生きていて帰ってきた場合、その後、失踪宣告が取り消された場合はどうなるのでしょう。

実は、最初から失踪宣告がなかったものと扱われる結果、死亡による婚姻の解消もなかったことになりますから、法的にはずっと結婚したままであったことになります

では、残されていた配偶者が再婚してしまっていたときには、どうなるのでしょうか?

この点は判例がなく、統一的な見解もありません。

難しい話になりますので、興味のある方は下記ボタンからお読みください。

民法は、失踪宣告の「取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない」(民法32条1項)と定めています。
これを婚姻にも適用し、再婚した2人が「善意」、即ち失踪宣告が事実でないこと(本人が生きていること)を知らなかった場合には再婚の効力は失わないとする学説が有力でした。

さらに「再婚の効力が失われない」とはいかなる意味かについても論争があり、再婚を有効として、前の婚姻を復活させない扱いであるとする学説がもっとも有力とされていました。
法律書では、戸籍の実務がこれを採用していると紹介されています(昭和25年2月21日民甲520号民事局長回答)。

他に、前婚も再婚も共に有効な重婚状態となり、それを前婚の離婚原因(770条1項5号)とすることも、再婚の取消原因(743条、744条)とすることも可能という考えもあります。

ただ、このように再婚当事者の「善意」を条件とする考え方では、再婚当事者の双方または片方が善意でないときにどうするかが、さらに問題となりますが、この点もやはり判例がなく、まとまった学説もありません。

そこで、近年では、婚姻では当事者の意思を尊重するべきとして、善意か否かを問わず常に再婚が有効で、前婚は復活しないとする学説が多くなってきました。

この考え方では、再婚した者が、前の結婚生活にもどりたいと希望する場合は、失踪宣告の取消が再婚の離婚原因となると認めればよいと主張しています。

失踪した配偶者との「離婚」と「失踪宣告」のどちらを選択するべき?

失踪した配偶者との関係を解消する場合に、どちらの方法を選択することがよいのでしょう?
判断のポイントは大きく分けて2つあります。

ポイント① 配偶者が帰ってきた場合の取扱い

離婚では配偶者が生還しても、離婚は無効になりません。

しかし、失踪宣告では宣告が取り消され、婚姻は解消されなかったことになります。婚姻継続を望まないなら、新たに離婚をする必要が生じます。

さらには相続の効力も失われるので、例えば不動産を得ていても、本人に返還しなくてはなりません。

この意味で、失踪宣告には常にリスクがあります。

ポイント② 財産分与か相続かの違い

離婚での財産分与は、①実質的な夫婦共有財産の清算、②離婚後の生活扶助、③慰謝料という3つの要素が総合考慮されます。

共有財産の清算は、他方配偶者の貢献度に応じて計算します。
通常は、例えば夫名義の資産でも妻の貢献度が50%と評価されます。
もっとも、妻が中心となって家業を切り盛りしていた場合などは、実態を反映して貢献率が50%を超えることも認められます。

他方、相続では配偶者の法定相続分は次のとおりです。

  • 配偶者だけが相続人……遺産全部
  • 配偶者と子が相続人……2分の1
  • 配偶者と直系尊属(両親、祖父母)が相続人……3分の2
  • 配偶者と兄弟姉妹が相続人……4分の3

このように配偶者の法定相続分は、財産分与における一般的な貢献率50%を超える場合があります。
また、財産分与における特有財産も相続の対象となります。

このため、どちらがよいかは、①共同相続人の有無、②特有財産の内容、③貢献度といった諸条件に応じたケースバイケースの判断となります。

失踪した配偶者との離婚に関するよくある質問

離婚を認める判決の後で失踪した配偶者が出てきたとき、離婚の効力はどうなる?

この場合、すでに確定した離婚判決を争うことは許されませんから、離婚がくつがえることはありません。

配偶者が失踪したときの裁判離婚でも財産分与請求はできるの?

公示送達を利用した裁判離婚であっても、離婚は離婚ですから財産分与を請求できます(民法771条、768条)。
ただ、相手が全財産の現金1,000万円を持ったまま行方不明という場合では、たとえ財産分与が認められたとしても、取り立てが事実上不可能ですから無意味です。

他方、相手名義の不動産や預貯金がある事案なら、差し押え可能な財産が目の前に残されているので意味があります。
家庭裁判所に財産分与の請求審判を申し立て、その内容を決めてもらいます。
この申立手続にも、裁判所の裁量で認められれば公示送達を利用できます。

通常は、相手名義の不動産でも預貯金でも、特有財産(婚姻前から有した財産や相続した遺産など)を除いた資産(実質的な夫婦共有財産)の半分は財産分与の対象となります。

審判で具体的な分与が確定すれば、強制執行手続をおこない、不動産の名義を移転させたり、金融機関から預貯金を取り立てたりすることが可能となります。

失踪した配偶者と離婚したら相続できなくなるの?

離婚すると法定相続人ではなくなりますから、配偶者が離婚判決の確定後に死亡した場合は相続できません。

逆に、実際には離婚判決の確定前に配偶者が死亡しており、それが判決確定後に判明した場合には、相続開始時である死亡時には配偶者として法定相続人であった以上、相続できることになります。

失踪宣告の後で本人が出てきた場合はどうなる?

失踪宣告で死亡とみなされた者が生きていた場合、本人または利害関係人の申立によって、家庭裁判所が失踪宣告を取消す審判を行います(民法32条1項、家事事件手続法39条、同別表第1の57項)。

失踪宣告によって死亡日とみなされた日とは別の日に死亡していた事実が明らかになった場合も同じです。

この取消によって、最初から失踪宣告がなかったものと扱われます。

まとめ

このように、家出・失踪や音信不通の旦那と離婚したい場合、失踪した配偶者との婚姻を解消する方法として、離婚と失踪宣告のどちらを選ぶかは、慎重な判断が必要です。

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執筆・監修
服部 貞昭
ファイナンシャル・プランナー(CFP・日本FP協会認定)
2級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)
東京大学大学院 電子工学専攻修士課程修了
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