開業医特有の離婚問題と注意点まとめ|財産分与や医療法人はどうなる

isya rikonn

開業医としての生活は特有の忙しさや責任を伴いますが、離婚という大きな変化が生じた場合、さらに複雑な問題が浮上します。この記事では、開業医に特有の離婚問題とその注意点に焦点を当て、財産分与や医療法人に関する重要なポイントをまとめています。

開業医の場合、医療法人やクリニックなどの経営において共同所有や共同運営するケースがあります。離婚時には、これらの資産や権利の分配が大きな関心事となります。財産分与においては、診療施設や機器、売上などの適切な評価や分配が求められます。

医療法人の場合、配偶者による医療法人への影響も懸念されます。離婚に伴って法人の構成や経営への関与が変わる可能性があり、その際には法的手続きや合意事項に注意が必要です。

離婚時には子供の親権や養育費の問題も考慮しなければなりません。開業医の忙しさから生じる時間的制約や、子供のニーズを満たすための協力体制の確立も大切です。

開業医特有の離婚問題には法的・経済的な側面だけでなく、個人的な感情や家族の関係にも影響を及ぼす可能性があります。離婚に際しては、専門家のアドバイスを受けることで、公平でバランスの取れた解決を目指すべきです。

開業医特有の離婚問題とは?

医師の離婚の中でも、特に開業医が離婚をする際、特に問題となる点について解説します。

配偶者が病院の事業を手伝っている

夫婦で一緒に仕事をしたい、他人を雇うよりも安心、あるいは税金対策などの観点から、配偶者が病院の事業を手伝っているケースがあります。

しかし、離婚をする場合には、結婚している間と同様に病院を手伝ってもらうメリットがほとんどなくなってしまいます。また、離婚後も病院で顔を合わせなければならないとすると、夫婦間での精神的なわだかまりが解消されず、新たな生活に踏み出していくことに対する障害になってしまうかもしれません。

そのため、開業医が離婚をする際には、病院の事業に関与している配偶者の地位の問題についても、清算・解決する必要があるでしょう。具体的にどのように問題を解決すべきかについては、配偶者がどの立場で病院の事業に関与しているかによって異なります。

開業の際に配偶者の親族から援助金が出ている

開業医が病院を開業する際に、配偶者の両親などの親族から、開業支援金の名目で金銭が提供されるケースがあります。このような場合に、開業医が離婚するとなると、配偶者の両親などの親族から、開業支援金を返還するように求められる可能性があります。

開業支援金を返還しなければならないかどうかは、どのような約束の下で金銭を受け取ったかによって左右されます。

たとえば開業支援金を「贈与」、つまり返さなくても良いお金として受け取ったのであれば、後で離婚をすることになったとしても、開業支援金を返還する必要はありません。

一方「貸付け」、つまり返済義務のあるお金として受け取ったのであれば、離婚をする・しないにかかわらず、返済期限が到来すれば返さなければならない性質のお金ということになります。

また、「離婚をした際には開業支援金を返還しなければならない」という条件付の贈与の形式が取られているケースもあります。この場合にも、離婚をするのであれば、開業支援金を返還しなければならないでしょう。

当初にどのような合意が存在したのかについては、合意書面が残っていれば強力な証拠となります。たとえば「借用書」の形で返還合意が明記されていれば、開業支援金の返還義務が肯定されやすいでしょう。

開業の際に配偶者の両親から開業支援金を受け取っている場合、離婚をする前に、開業支援金に関する書証などが存在するのかどうかを、事前によく確認しておきましょう。

配偶者が病院に協力していた場合、離婚したらどうなる?|形態別に解説

配偶者が病院の事業に関与していた場合、離婚を機会として、病院の事業からも手を引いてもらいたいと考える場合が多いでしょう。

しかし、夫婦関係と事業における協力関係は、法的には全く別のものです。そのため、離婚をしたとしても、配偶者が自動的に病院の事業から排除されるというわけではありません。

配偶者に病院を辞めてもらいたいと考える場合には、配偶者の立場に応じて、法律上必要な手続きを踏む必要があります。

配偶者が病院の従業員の場合

配偶者が病院の従業員として働いている場合、病院と配偶者の間に「雇用契約」が存在します。雇用契約を解消するためには、原則として病院・配偶者間の合意が必要です。

なお、病院の側から一方的に雇用契約を解消する行為は「解雇」に該当します。就業規則などに定められる解雇事由に該当する場合、病院の側から一方的に解雇を通告することも認められる可能性があります。
しかし、労働契約法16条に基づき、客観的・合理的な理由と社会的相当性が認められない解雇は無効となってしまうので注意が必要です。

基本的には、病院の経営者である開業医と離婚をしたからといって、解雇をするための客観的・合理的な理由にはなりません。病院外での不倫関係なども、病院における就労に悪影響を及ぼす事情とは言い難いため、ケースにもよりますが、やはり懲戒事由として認められる可能性は低いでしょう。

一方、病院の同僚と配偶者が不倫していたようなケースでは、病院の秩序を乱す行為として、懲戒処分の対象となる可能性がありますが、解雇が相当かは慎重な判断が必要です。

このように、配偶者との間の雇用契約を解消できるかどうかは、配偶者との交渉や、解雇事由があるかどうかの判断にかかってきます。

非常に専門的な話になりますので、詳しくは弁護士に相談することをおすすめします。

 配偶者が医療法人の理事である場合

配偶者を医療法人の理事として選任している場合には、病院と配偶者の間に存在する契約は「委任契約」となります。

委任契約については、解約などに関して、雇用契約の場合に適用される解雇制限のような制約は存在しません。したがって、委任契約上の契約解除事由に該当する場合には、委任契約を解除することができます。
しかしながら、病院の経営者である開業医と離婚をしたというだけでは、通常は委任契約の解除事由に該当することはないと考えられます。

もっとも、医療法人の理事の任期は最長2年間とされています(医療法46条の5第9項)。
任期が切れた場合には、再任されない限り、その時点で自動的に理事の地位から退かなければなりません。
そのため、配偶者との間で退任に関する話し合いがまとまらない場合には、理事の任期切れを待って退任してもらうというのもひとつの手段でしょう。

また、社員総会の決議があれば、理事である配偶者を解任することもできます(医療法46条の5の2第1項)。

ただし、解任について正当な理由がない場合には、医療法人(病院)に対して損害賠償を請求される可能性があるので注意しましょう(同条2項)。

開業医の離婚|財産分与をする際に特に注意すべき点

開業医の場合、医療法人を経営している関係上、医療法人の出資持分や個人・法人間の財産の区分けなどの問題があり、財産分与が複雑になりがちです。

以下では、開業医が財産分与をする際、特に注意すべき点について解説します。

病院(診療所)の出資持分の取り扱い

医療法改正(平成19年4月1日施行)によって、医療法人は出資持分を定めない形で設立することが原則とされました。

しかし実態としては、同改正以前に設立された医療法人の多くが、出資持分の定めがある医療法人として存続しています。医療法人の出資持分を婚姻後に取得した場合には、夫婦共同の財産として財産分与の対象となります。

しかし、医療法人の出資持分を現実に分割してしまうと、医療法人の経営権が分散してしまうことになり、経営上の不都合が生じてしまいます。そのため実際には、医療法人の出資持分を財産分与の基礎となる財産に加えたうえで財産分与の金額を算定し、金銭で精算する形が取られることが一般的です。

出資持分の評価方法については、複数の方法があり、裁判例でも確立していませんが、医療法人の決算書に基づき、純資産価格をベースとして計算した裁判例があります。

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財産分与の対象財産を確定するのが難しい

開業医個人の財産と、医療法人の財産は、法的には全く別のものとして分けて考えられます
医療法人名義の財産は、出資持分の評価において考慮されますが、法人名義の財産は財産分与の対象ではありません。

ただし、医療法人の実態が個人経営の域を出ず、実質上夫婦の一方または双方の資産と同視できる場合は、公平の観点から、医療法人名義の資産を夫婦の一方または双方の財産と評価するという考えもあります。

また、開業医は多額の資産を所有しているケースもあります。その場合には、分散投資によって財産が散在しているため、配偶者の側からすれば、そもそも開業医個人の財産を完全に把握すること自体が難しいでしょう。

こうした場合には、財産分与の前段階である財産開示の段階で、話し合いが紛糾してしまうこともしばしばです。

このように、開業医による離婚のケースでは、財産分与の対象財産を確定するのが難しいという問題があります。
開業医の側としては、自身の所有する財産の中で、どれが財産分与の対象となるのかを正しく把握しておくことが大切です。そのうえで、配偶者側から理不尽な要求が行われた場合、説得的な理由とともに拒否できるようにしておかなければなりません。

法的にどの財産が財産分与の対象となるか、また配偶者に対してどのように反論すればよいかなどについては、弁護士に相談することをおすすめします。

開業医の離婚|婚姻費用と養育費について

開業医は収入が高いケースが多いため、婚姻費用と養育費の支払いが高額になる傾向にあります。

婚姻費用と養育費は、原則として裁判所が定める「養育費・婚姻費用算定表」をベースにして計算されます。
算定表に基づく計算においては、夫婦の収入を比較して婚姻費用・養育費の金額を求めることになります。

しかし、開業医(自営業者)の場合は支払う側の年収が1567万円までしか算定表上の記載がありません。この上限を超える年収を得ている開業医の場合は、婚姻費用・養育費の算定は交渉次第、審判や訴訟であれば裁判所の事実認定次第ということになります。

加えて、子どもの教育費などが養育費に上乗せされるかどうかについても難しい論点があります。
開業医の側としては、婚姻費用・養育費の交渉を有利に進めるためには、弁護士に依頼をすることをおすすめします。弁護士に依頼をすれば、配偶者や裁判所に対して、開業医側の主張を説得的に展開することができるでしょう。

医師による離婚のケースにおける婚姻費用・養育費の問題については、以下の記事も併せてご参照ください。

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開業医の離婚|慰謝料と親権について

一般の離婚のケースと同様、開業医による離婚のケースでも、慰謝料と親権の問題が付いて回ります。

開業医であることによって発生する特殊な問題が存在するわけではありませんが、離婚を検討する際には、慰謝料と親権についての基本的なルールを押さえておく必要があります。

慰謝料と親権の詳細については、以下の2つの記事を参照してください。

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まとめ

開業医の場合、勤務医のケースと比較しても、医療法人に関する権利などとの関係上、離婚に関する話し合いがさらに複雑化する傾向にあります。

特に財産分与に関しては、医療法人の出資持分の取り扱いや財産開示などとの関係で、話し合いがこじれてしまうこともしばしばです。

開業医が離婚の交渉や調停・訴訟などを有利に進めるためには、医師の離婚について経験豊富な弁護士に相談することをおすすめします。
医師に専門医や認定医がいるように、弁護士にも専門分野や得意分野があるからです。

弁護士と相談しながら、開業医ならではの離婚の注意点もしっかりと踏まえつつ、裁判所や配偶者に対して自らの主張を説得的に提示しましょう。

離婚に強い弁護士が法的に解決いたします

離婚問題でお困りの方は、離婚に強い弁護士にご相談ください。慰謝料、財産分与、親権など離婚を有利に進めることができる可能性があります。

弁護士に相談することで、以下のような問題の解決が望めます。

  1. 慰謝料がもらえない
  2. 財産分与が妥当でない
  3. 親権がとられそう
  4. 養育費が納得いかない

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