婚姻費用の審判結果に納得がいかない!即時抗告について弁護士が解説
別居中の夫に対して婚姻費用を請求するのに調停を申し立てたけど、夫が応じなかったので審判になった! 裁判所が出した審判…[続きを読む]
別居した夫が生活費を送ってくれない場合、「婚姻費用」を請求することができます。
別居中の夫が応じない場合は、家庭裁判所の調停手続である「婚姻費用の分担請求調停」を申し立て、裁判所に話合いの仲介をしてもらうことが可能です。
もっとも、ほとんどの方にとって、家庭裁判所の調停を利用することは初めてのことであり、どのような手続の流れになり、どのようなことが聞かれることなのか、とても不安だと思います。
この記事では、婚姻費用の分担請求調停の手続の流れやコツ、やり方、必要書類、調停は何回か、1回目で終わるか、調停で聞かれることから、不成立になった場合の審判移行、婚姻費用の分担請求調停に対するよくある質問などについて詳しく回答します。
目次
最初に、婚姻費用の内訳や調停の概要について簡単におさらいしておきましょう。
婚姻費用は、夫婦と未成熟子が生活する上で必要となる費用です。
これには、
など一切の費用が含まれます。
婚姻費用は一切の事情を考慮して決めるとされているだけで(民法760条)、その金額を定めた法律はありません。
夫婦は互いに、相手及び子どもに自分と同程度の水準の生活をさせる義務(生活保持義務)があると考えられており、これが一応の目安となりますが、これだけでは具体的な金額が出てきません。
そこで裁判所では、事件処理を効率化し、迅速な支払実現を確保する目的から、統計数値に基づく「養育費算定表」(※)を利用して金額を決めています。
【参考】裁判所HP:養育費・婚姻費用算定表
同表では、以下の項目を当てはめて金額を算出します。
夫婦と未成熟子の生活を維持する費用(婚姻費用)の分担について、夫婦間での話し合いがまとまらない場合に、家庭裁判所に話合いの仲介をしてもらう制度が「婚姻費用の分担請求調停」です(家事事件手続法244条)。
婚姻費用の分担請求調停では、裁判官1名と調停委員2名(多くの場合、うち1名は弁護士)がひとつの案件を担当します。
そして、夫婦の資産・収入・支出その他一切の事情を考慮して解決案を提示したり、助言をしたりしながら、円満な合意を目指した話し合いが進められます。
調停の流れはこの後ご説明しますが、その前に調停で聞かれることやコツを理解しておきましょう。
調停期日に調停委員から聞かれることは、おおむね次のとおりです。
前述のとおり、婚姻費用の金額は、当事者の収入と子どもの人数と各年齢がわかれば、算定表に当てはめて機械的に金額が算出され、その範囲内で微調整をするだけというのが家庭裁判所の基本的な手法です。
しかし、事情を聴取する対象が、家計の収支や子どもの人数・年齢にとどまるわけではありません。むしろ、夫婦をめぐるあらゆる事情が聴取対象となると考えてください。
このような聞かれることの目的には以下の3つの理由があります。
調停が不成立となり審判に移行すれば、多くの場合、調停を担当した裁判官が審判も担当し、不貞行為の有無についても判断し、それを前提として婚姻費用分担義務と金額を決めることになります。
ですから、調停を単なる話し合いとみて軽んじてはいけません。審判を見据えて、調停の段階で、できるだけ詳細に事実関係を主張し、証拠も提出しておく必要があるのです。
また、算定表の金額以上を請求したい場合には、その理由について「根拠」を提示し説明できるように準備しておく必要があります。
例えば、子どもの進学先が決まっているなら、その具体的な入学金・学費・行事費用など年間の金額を具体的に示す必要があります。
まだ入学していなくとも、昨年度の実績資料を学校や先輩家庭から入手するなどの方策をとるべきでしょう。
ここからは、婚姻費用の調停の流れやコツ、やり方、調停は何回か、第1回目の期日、2回目以降の期日、調停終了時の4つに分けてご説明します。
申立てから1週間程度で、書記官から電話で申立人に連絡があり、第1回期日をいつにするか、裁判所の都合が伝えられます。
おおむね申立から「1ヶ月後の日程が打診」されます。
裁判所と申立人の都合が合えば、第1回調停期日が決まり、裁判所が相手方に対して「呼び出し状を郵送」します。
なお、この連絡の際、申立時に未提出であれば、源泉徴収票、給与明細、賃貸住居の賃貸借契約書、住宅ローンの支払明細書などの資料のコピーを追加提出するよう求められることがあります。
1回目の婚姻費用分担調停の流れは、大きく4つに分かれます。
調停手続にかける時間は、ひとつの期日につき2時間程度です。
裁判所に、短い時間で十分に事実関係を理解してほしければ、事前に書面で詳細な説明をしておくべきであり、事前の準備が重要である点では訴訟と変わりありません。
加えて、第1回期日は、事実関係を把握するために、申立人の事情聴取に多くの時間が割かれることが実情で、相手方の話を聞く時間がほとんどないという例も珍しくはありません。そのため、第2回以降の期日が必要となるケースがほとんどです。
では、4つの流れについてそれぞれ詳しく見ていきましょう。
第1回調停期日に裁判所に出頭した際には、まずは受付で出頭したことを告げる必要があります。
裁判所によって多少異なりますが、多くの場合、受付に申立人と相手方の名前が記載された受付票が置かれており、出頭した当事者は、そこに名前を記入して受付を済ませます。
受付をすると、当事者の待合室に案内されますので、呼び出されるまで、待合室で待機することになります。なお、待合室は、申立人と相手方で分かれており、顔を合わせなくても済むようになっています。
時間になると、調停委員が待合室に迎えに来てくれますので、一緒に調停室に入ります。
第1回調停期日の冒頭では、調停室に、相手方も含めた全員が同席します。裁判官、調停委員2名、申立人、相手方の合計5名です。全員が顔を揃えた場で、裁判官から調停手続について手短な説明があります。
多くは、「裁判と違って、調停はあくまでも話合いであって、お互いが納得して円満な解決を目指す手続です。裁判所は、そのお手伝いをするものです。」などという心構えを説く内容で、一種の儀式と思ってください。
なお、相手方と同席したくない場合は、事前に、あるいは調停委員が待合室に呼びに来たときに、その旨を伝えれば、この説明も当事者を別々に調停室に呼んで個別に行ってくれます。
冒頭の儀式が終わると、相手方は退出させられ、申立人が調停室に残り、調停委員から事情を聞かれることになります。ここからが、本当の手続の始まりです。
申立人が事情を聞かれた後に、申立人が退出して申立人待合室に行くと、今度は、調停委員が相手方待合室に相手方を迎えにゆき、相手方が調停室にはいって事情を聞かれます。
相手方の話が終わると、相手方は退出して相手方待合室で待ち、調停委員が申立人を迎えに来ます。
このように交互に調停室に入って、個別に事情を聞くことを繰り返すのが、調停手続の特色です。
冒頭に申しましたように、通常、第1回期日だけでまとまることはありませんので、第1回期日の最後には、第2回期日の日程を調整することになります。
関係者全員の日程を調整する必要がありますので、この時も、申立人と相手方は同席します。ただし、これも同席したくない旨を伝えておけば、個別に都合を聞いて調整してくれます。
2回目以降の調停期日についても、冒頭の説明を除いて、1回目と同様の流れで進みます。
また、調停は何回行われるかと言うと、各裁判所では、概ね「3回の調停」で合意することを目指しています。
つまり、3回目で合意に達しなければ、決まらなければ、調停は不成立とされます。
ただし、3回目で合意に至らなくとも、調停により双方の希望の隔たりが僅差となっており、もう少しで合意できそうだという場合には、さらに期日を設けてくれる場合もあります。
例えば、以下のようなケースが典型的です。
2回目以降の婚姻費用分担請求調停について、
の2つのケースについてそれぞれ流れを解説していきます。
合意に至った場合、調停調書を作成する作業を行います。
これは、当事者双方が同席のうえ、調停委員だけでなく、裁判官、書記官も調停室に入って行います。合意内容をひとつひとつ確認しながら、調停調書に記載する文面を作成するのです。
もちろん、この作業も、相手と同席することが嫌であれば、個別に行ってくれます。
この確認作業が終了すると、裁判官が「調停が成立しました」と告げ、調停手続は終了となります。厳密には、調停調書の作成により、記載した事項が法的効力を持つことになります(家事事件手続法268条1項、253条、同規則126条1項、32条1項1号)。
調停調書は、後に裁判所から郵送されてきます。相手が合意に反して婚姻費用を支払わない場合、調停調書を法的根拠として給与や資産を強制的に差し押さえることができます(家事事件手続法268条1項、民事執行法22条7号)。
合意に至らなかった場合には、調停は不成立となって調停手続は終了します。
しかし、自動的に「審判手続」が開始されます(家事事件手続法272条4項)。
婚姻費用分担請求調停は、夫婦のどちらからでも申し立てが可能です。
原則として相手方の住所地の家庭裁判所に申し立てます(家事事件手続法245条1項)。
費用は収入印紙1200円分と連絡用の予納郵券(郵便切手)です。予納郵券の総額と内訳は、各裁判所によって異なりますので、申し立てをする家庭裁判所へ確認してください。
調停での必要書類は、下記のとおりです。
申立書の書式は、裁判所のサイトからダウンロードでき、記載例も参照できます。
また、申立書に添付する必要書類としては以下の通りです。
申立人自身の収入関係の資料はもちろんですが、相手方の収入関係の資料もあれば、たとえそれが厳密に現時点の収入に関するものでなくとも必ず提出してください。相手が収入を秘匿したり、過小に主張する危険性を少しでもなくすためです。
以下では、婚姻費用の分担請求調停について、よくある質問とその回答をご紹介します。
第1回調停期日は、裁判所と申立人の都合だけで日程が決まるので、期日に相手方の都合がつかず欠席となる場合も多いです。
相手方が期日の変更を要望しても、裁判所は、通常は期日を変更せず、第1回調停期日は、申立人の事情だけを聞く機会とし、相手方から事情を聴取するのは第2回調停期日となります。
相手方が何の連絡もなく欠席をした場合は、そもそも今後の調停を続行できるのかどうかが問題ですから、調停委員から申立人に対して、相手方の生活状況や出席しそうかどうか等を尋ねることになります。
通常はもう1回期日を設けて、裁判所から電話などで連絡を試みますが、次回も相手方が出頭しない場合は調停は不成立となって手続は終了し、そのまま審判手続に移ることになります。
過去の婚姻費用を請求することはできるのでしょうか?
この点は、過去に遡って請求できるとするのが最高裁の判例です(最高裁昭和40年6月30日決定)。
ただし、いつの時点まで遡って請求できるのかはケースバイケースで、裁判官の裁量の範囲内とされています。
そのため、事案によって次のように判断が分かれています。
ただし、①~③の時点からとするものはあまり多くなく、近年では殆どが④か⑤の時点からとされることが多いです。
婚姻費用分担請求調停は、申立人であれば、取下書を裁判所に提出するだけで、理由を問わず、いつでも自由に取り下げが可能です。
取り下げには特に理由は必要なく、取り下げの理由を裁判所に尋ねられることもありません。また、相手方の同意も不要です。
第1回調停期日が指定された後でも、あるいは第1回調停期日後の調停進行中であっても、取り下げは自由です。
この記事で婚姻費用の分担請求調停の申し立てや流れ、やり方、調停は何回で決まるか、1回目で終わるか、コツやおおまかな手続がおわかりいただけたと思います。
調停手続は、ご自身だけでも可能ですが、希望される金額の婚姻費用を得る可能性を高めるには、離婚に強い法律の専門家である弁護士に相談、依頼されることをお勧めします。
専門家に相談することで、スムーズに解決することが期待できます。